INDIES BAND

Special Interview - 宍戸 開宍戸開(俳優/写真家) ─ お気に入りのトニーニョ・オルタ作品

月刊ラティーナ 2019年10 月号掲載



 

 

 
■出会い  心地よい音楽を求めて、フュージョンから入ってブラジル音楽を聴くようになりました。
 当時の天気予報で流れていて、誰でも一度は聴いたことがあるけど、誰が歌っている何という曲がわからないっていう時代があったんですけど、追っていったらトニーニョに行き着きました。
 最初はやっぱりパット・メセニーでした。メロディアス性もあるんだけど、ボサノヴァほどじゃない。トニーニョとジョイントする作品とかあって、「あ、この人のを聴きたい」と思って探して聴くと、なんか演歌に通ずる情感だった。残念なことに、僕が30代のころトニーニョは何度か来日してはいるけど、全盛期に聴いていたときにあまり来日がなくて、ライヴを見るチャンスがあまりありませんでした。パット・メセニーは、毎年のように見に行けたんですけどね。
 僕は66年生まれ。ちょうど中学生から高校生の頃にフュージョンがとても流行って、「ブルー・ラグーン」が弾けるように練習した世代でね。バンドもやって、ドラムを叩いていて、それでいろんな音楽を聴くようになって、打楽器をやっているとやっぱり南米よりになってくるというか、(南米に)パーカショニストとか多いじゃないですか。そういう人をマークするようになりました。
 89年にデビューして仕事をはじめましたが、そのころは、カセットテープに録って保管していたんですよ。当時のカリフォルニアのフュージョンの、リー・リトナーとかラリー・カールトンとか。カエターノ・ヴェローゾの「リンダ」を歌っているのも、30年くらい前のアルバムになるけど、その辺が全盛期。聴いてはテープにダビングして、つなげて、トニーニョとかリー・リトナーとか、チック・コリアとか。A面はさわやかお天気バージョン、B面は情感バージョンみたいな、ちょっと寂しい曲とかテーマを立てて作ってた。当時つきあっていた彼女にプレゼントなんかしたりして。カバーも手書きでイラストとか入れて、真剣に作ってた。一回失敗するともう一回最初から作り直しみたいな(笑)
 音楽に関しては歌も好きだけど、人の声は通りやすいから、歌が上手い、歌詞の意味は何だろう、「広い海に来た」、ああ悲しいのかな、寂しいのかって容易に想像ができてしまう。それを歌なしで聴くのが音楽だと思う。人の声では伝わりすぎてしまうから、楽器が融合して、まるで人の言葉になっているような演奏が感じられるのがフュージョンとかジャズとかだと思うのです。音楽家は、ブラジリアンたちの歌い方を各楽器でやってほしいと常々思います。歌わないで、楽器の演奏で。余計なものを省いて等身大の力で。
 ブラジル音楽はトニーニョから入りました。カエターノ・ヴェローゾ、イヴァン・リンス…… イヴァン・リンスは昭和女子大で見ました。
 
■好きすぎて生涯大切にしたいアルバム  仕事終わりに悲しいわけでもないのに、たまたま流れていた「Pilar」を聴いて思わず涙が出ちゃったことがあって、日本でぜひ聴きたいですね。
 八代亜紀さんみたいなハスキーな声でIvete Sangaloが歌う、「Diana」も、共演する姪っ子のために書いた曲なら、やってくれるかな。
 ソロギターで弾いて歌っているのをカバーしてオーケストレーションしてやっていますが、最初に聴いたのがそれだったので、トニーニョの音楽はきちっとしているイメージがあります。ラフなライヴも見たことあるけど、今回はバンドも一緒ということで、CDと同じようなきちっとしたものを期待している。
 ギター一本とマイクがあればできるっていう自信をもった人の、更に言えば歌詞がなくて演奏が歌となって聴こえてくるような音楽が好きです。
 赤ちゃんのときに、母親のお腹のなかで、何も見えないところで感じていた音や振動だったりというのを、トニーニョの音楽に感じます。