イーリアン・パイプス奏者ロナン・ル・バルスが新譜をリリース

ロナン・ル・バルス・グループ『An erc'h kentañ – The first snow(初雪)』

ロナン・ル・バルス・グループ『An erc’h kentañ – The first snow(初雪)』

フランスのバグパイプ、コルヌミューズはフランス各地の伝統音楽で使われてきた。ブルターニュではビニウ・コーズと呼ばれ、ブルターニュ半島突端部の地域に広がる伝統音楽に欠かせない楽器だ。70年代に興ったフォーク・リバイバルの旗手として躍り出たアラン・スティーヴェルはブルトン・ハープ(ケルティック・ハープ)だけではなく、ビニウ・ブラーズと呼ばれる50年代に導入されたスコットランドのグレート・ハイランド・バグパイプの奏者でもある。筆者は2000年7月にリハーサル中のアラン・スティーヴェルにインタビューしたことがある。その折にこのバグパイプの演奏を間近で聴いたが、その耳をつんざく大音響に腰を抜かしたことを憶えている。それに比べて音量の小さいアイルランドのイーリアン・パイプスはリスナーの耳に優しく、微妙なサウンドも自由自在に表現できる。また音を止めることが可能なため、他の楽器とのセッションも容易だ。

ブルターニュの中央部ガンガンで生まれたロナン・ル・バルス(48歳)はビニウ・ブラーズ奏者の父親の影響で幼い頃からこのバグパイプに親しみ、地元ガンガンのバガッド(ブルターニュ伝統音楽を演奏する集団)で修練を積んだ。80年代、16歳の時に聴いたアイルランドのプランクシティやリーアム・オフリンに衝撃を受け、イーリアン・パイプスのとりこになったという。ベルファストから取り寄せた部品で自ら楽器を作り、独学でマスターした。その才能を認められ、90年代からダン・ア・ブラーズの「ケルトの遺産」やジャック・ペレンの「ケルティック・プロセッション」に参加し、ディディエ・スキバン、ボクレ兄弟、ジル・セルヴァ、アラン・スティーヴェルなどブルターニュのアーティストだけでなく、ジョニー・アリディ、ルノー、クロード・ヌガロ、ミッシェル・ポルナレフなど幅広くコラボレーションしている。

2012年に自身の名を冠したロナン・ル・バルス・グループ(イーリアン・パイプス、ギター、バイオリン、コントラバスのクアルテット)を結成し、ブルターニュ音楽や他の文化圏の音楽をイーリアン・パイプスを通した新しいサウンド作りに挑戦している。2013年の初盤『Lammdour(滝)』と同じラインに立った第二作『An erc’h kentañ – The first snow(初雪)』が今夏リリースされた。「イーリアン・パイプスはあくまでもアイルランドのもの。ブルターニュ音楽といかに整合させるか難しいが、またそこが面白さでもある」と語るロナン・ル・バルス。本盤では彼自身の作曲とブルターニュ伝統歌が半々だ。特にカンペール出身の亡きバグパイプ奏者エルヴァン・ロパルスに捧げられた自作曲『Son An Ene』は荘厳で心打たれる。

(パリ●植野和子)


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