ガリフナ族のMVが評判!! マヌ・マルティネスが描いた世界

50人以上のミュージシャンが参加するMVで中心に立つマヌ・マルティネス

50人以上のミュージシャンが参加するMVで中心に立つマヌ・マルティネス

いま、中米ホンジュラスで評判になっている構想のおおきな歌、そしてビデオクリップがある。『WENDETI NAGAIRA』がそれ。同国カリブ沿岸に点在した共同体をもつアフロ系ガリフナ族の言葉で「私の大地はとても美しい」の意。作詞作曲、そして歌うのはマヌ・マルティネス。

2014年、同国制作された劇映画『ウナ・ロカ・ナビダ・カトラチャ』で音楽を担当したことで一躍、全国区の人気者になった。喜劇で、庶民の姿をクリスマス時期という一年でいちばん家族・親族の出入りが多い季節を舞台に、楽あれば苦もある生活の機微を描いた佳作。クリスマス映画ということもあって中米諸国ではお馴染み定番クリスマスソングが随所に挿入されていて、それだけで音のアルバムといった貴重な作品なのだ。ホンジュラスで「ご当地」映画としてヒットしたこの作品を制作したシン・フロンテーラス・スタジオが、今回のビデオ・クリップを制作した。

マヤ系先住民が多い内陸部、先住民と西欧人との混血ラディーノ、そして沿岸部のアフロ系ガリフナ族。さまざまな血が交じり合った多様な文化が交じり合った自然の恵み豊かな国というのがそのコンセプトだ。

1992年、コロンブスの「新世界」到達500周年を記念した年、メキシコ、というよりラテンポップス界を代表するルイス・ミゲルが壮大な構想で歌い上げた『アメリカ、アメリカ』を欧米目線でない、「新世界」からの自己主張、宣言ともいえる歌として評判になったことがある。ミゲルがうたった「アメリカ」は無論、南北アメリカ世界への賛歌であった。しかし、それはすべて西欧音階で書かれ、アメリカ先住民やアフロ系音楽への配慮はなかった。マルティネスはガリフナの民俗音楽、マヤ系の音色を交えることによって一曲のなかに多様な要素を盛り込むことに成功した。

マヤ系先住民を象徴する縦笛の独奏、オーケストラの弦楽合奏、ガリフナ族の民族音楽プンタ、ポップスへの変調、さらにジャズ性まで加味し違和感なく流麗かつリズミカルに流れる。

カリブ沿岸の町セイバの浜、紺碧の海と空を悠久のホリゾントをステージとして、肌の色が違う音楽家が50人以上集まって演奏するビデオは圧巻だ。『WENDETI〜』は近年、中米諸国が生んだ作品として筆頭にあげたいものだ。

(ホンジュラス●上野清士)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ9月号に掲載されています。
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