ますます妖艶さを増すネイ・マトグロッソ

ネイ・マトグロッソ

MPBという呼び名は既に古ぼけた感があり、70年代、80年代にブラジル音楽を牽引したスターの多くも、かつての輝きを失い、昨今、他界や闘病という悲しいニュースを見聞きすることが多い。

そんななか、インタープリター(作曲しない歌手)として凛とした姿であり続けるネイ・マトグロッソが75歳を迎えた。複数の大手紙が文化欄一面で取り上げたほか、ケーブルテレビの放送局「カナル・ブラジル」は5夜連続でネイのドキュメンタリーや異なる時代のコンサート映像を放映する特番を組んだ。

『ローリングストーン』誌がブラジルの3大美声に選ぶなど、国内外から高い評価を得ながら、なぜか訪日とは縁遠いネイ。これまでの軌跡を振り返りたい。

軍政の続いた70年代に登場したバンド「セコス&モリャードス」のメインヴォーカルを務めたネイは、トランスジェンダーなハイトーン・ヴォイスと妖艶な踊り、そして北米のバンド「キッス」を彷彿させる白黒のフェイスペイントで異形のキャラクターを演じ、センセーションを巻き起こした。そのフィーヴァーぶりは、ファーストアルバムが発売より2ヶ月で30万枚のセールを記録したことからもうかがえる。

75年のソロアルバム『Água do Céu – Pássaro』から2014年の『Atento Aos Sinais – Ao Vivo』までリリースしたアルバムは35枚。ほぼ毎年発表されてきたアルバムジャケットを眺めるだけでも、「ブラジル音楽のカメレオン」と称されるその変幻自在なショーマンぶりが知れる。筆者は、これまでしばしばネイのステージを見てきたが、コンサートごとに描かれる異なる世界は、音の世界の域を超えた総合芸術的なスケールを感じさせ、いずれの舞台も釘づけにさせる“魔力”を感じさせるものだった。ちなみに「ライヴをもっとも大事にしている」というネイ、自らの魅力を遺憾なく発揮するために舞台照明も手掛けている。

今後の活動については現在のAtento Aos Sinais公演が2017年まで継続される。アルバム制作についての情報は告知されていないが、コンスタントな制作は期待していいだろう。

老いてなお……という評価はネイにはふさわしくない。老いてこそ “異形の者”らしさに磨きがかかる姿に表現者としてのストイックさを感じるばかりだ。

(サンパウロ●仁尾帯刀)


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