出演者の事故死が光を当てた巨大フェスのバックヤード

事故直後の現場の様子(EFE通信より)。 メインステージのすぐ横で事故は起こった。

事故直後の現場の様子(EFE通信より)。
メインステージのすぐ横で事故は起こった。

7月8日マドリードで5万人余りの観衆を集めて開催されていた野外フェス「マッド・クール」で悲劇は起こった。ステージの入れ替えの時間を埋めるショーとして空中アクロバットダンスを演じていたダンサーが、高さ25メートルの地点から落下して死亡するという事故が発生したのだ。痛ましい事故の犠牲となったのは、マドリード出身のペドロ・アウニオン。現在は英国に拠点を構え、自身のダンスカンパニーを率いて国内外で活躍する人物だった。
この事故が大きな注目を集めることになったのは、死亡事故が起こったにもかかわらず、イベントが一瞬たりとも中断されることなく続行されたためだ。主催者が死亡事故の発生を発表したのは、全プログラムが終了した明け方3時と、事故から4時間近くが経過していた。事故を目撃したフェス参加者のツイッターから主催者の決定に対する批判が高まり、事故直後に出番だったメインアクトのグリーンデイが「バックステージにいたため事故のことを知らなかった。知っていたらステージで演奏しなかった」という声明を出すという事態に発展した。主催者は「警察からの助言があり、安全上の理由から継続しなければならなかった」とする釈明を発表したが、その決定を疑問視する声は消えない。
とりわけ、主催者側の対応に反発したのがフェスで働く人々だった。バレンシアのフェス会場設置で死亡事故が発生していたこともあって、下請けのイベント会社を通してフェスで働く人々からの告発が続く。華やかなショーを裏で支える人々の劣悪な労働環境の問題にスポットが当たるようになった。最も批判を浴びたのが会場の救護室で働く看護師を募集する際に必要な医療品を持参することを応募者に要求したこと。医療従事者組合は、救護室の設備を整えるのは雇用者である主催者の責任だとして求人内容に問題があることを明確に指摘した。
マッド・クールは、スペイン各地が野外フェスで沸く中でフェスの不毛地帯になっていたマドリードで昨年から始まった。17万平方メートルを超える敷地を有する複合レジャー施設を会場に、延べ10万人を集客するという快挙を成し遂げた。観客の六割がマドリード在住者と、バカンスに行かれない人々の受け皿となったことが成功の要因と分析されている。今年は3ヶ月前にチケットが完売となり、その経済効果は約30億円と試算されていた。
野外フェスがショービジネスとして定着し、フェス間で観客争奪戦が繰り広げられる中で、運営を含めたフェスのあり方が問われている。

(バルセロナ●海老原弘子)


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