メキシコの殺人、惨事を生涯撮り続ける男、メティニデスの伝記映画

『EL HOMBRE QUE VIO DEMASIADO』のポスター

『EL HOMBRE QUE VIO DEMASIADO』のポスター

20世紀を代表する報道写真家、ロバート・キャパが、スペイン内戦(1936〜1969年)を取材をした写真のネガ4500枚が、1995年に、メキシコで発見された事件(2007年公式に発表された)を追ったドキュメンタリー映画「メキシカン・スーツケース」は、日本公開もされ、話題になった。同映画の監督で、イギリス出身メキシコシティ在住のトリーシャ・ジフが、2016年に制作した最新作、『EL HOMBRE QUE VIO DEMASIADO(あまりにも見過ぎた男)』を、メキシコでロードショー公開中だ。
この映画は、ギリシャ移民の両親を持ち、1934年にメキシコシティで生まれ、現在83歳の写真家、エンリケ・メティニデスの人生に迫ったドキュメンタリー。メティニデスは、両親が経営するカメラ店を訪れる新聞社のカメラマンたちと、幼少から交流を深めるようになり、イエロー・ジャーナリズム新聞、PRENSAのアシスタントとして、事件現場へ同行するようになる。12歳で撮った写真が初めて新聞に掲載され、それ以降、ガス爆発事故、飛行機の墜落現場、交通事故、殺人事件、1985年のメキシコ大地震のような自然災害など、多くの事件写真を撮り続けている。
彼の写真の多くには、死体が登場するのだが、ただ事件を伝えるというよりも、ドラマティックで、美しく見える瞬間すらある、ミステリアスなものだ。その魅力について、この映画は切り込もうとしていて、イギリスの音楽家マイケル・ナイマンや、スペイン出身の写真家、ペドロ・マイヤー、米国の脚本家・映画監督のダン・ギルロイといった有名人たちのコメントを取材したりもしている。しかし、そんな文化的価値を押しつけるようなことよりも、メティニデスの人となりが、あまりにも面白いので、普段の彼の姿を、もう少し突っ込んで観たかった。
マドリードやニューヨークでも大規模なメティニデスの個展が行われたにもかかわらず、飛行機墜落が怖いので、生涯絶対に乗らないと言い張り、海外の展覧会の会場へいくことはない。また、自分で決して自動車を運転しないという。あまりにも多くの死をカメラに収めてきたのに、死が怖いと語る彼だが、日常には死が隣り合わせなのを、身をもって知っている人間でもある。
この映画が、日本公開されるかはわからないが、メキシコ社会の本質を捉えるメティニデスの写真の数々を、日本でぜひ展示してほしいものだ。
(メキシコシティ●長屋美保)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ8月号に掲載されています。
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