国立サルバドル劇場 創立100周年を祝う

中米エル・サルバドルの首都サン・サルバドルの旧市街中心部に位置する国立サルバドル劇場が3月1日、創立100周年を迎え、盛大な記念行事が開催された。

同劇場は、中央広場に威容を誇る大聖堂とともに同国を代表する建造物で、同国第二の都市サンタアナの歌劇場とは双璧を成す。ともに同国最大の輸出産物コーヒーで獲得した富によって礎石が置かれたものだが、その換金作物のためにマヤ系先住民やまずしい農民たちの人権は寡頭支配層にはく奪され、呵責なく搾取されつづけたのも事実だった。

その不平等が極まった1980年代、寡頭支配層の傀儡(かいらい)でしかなかった軍事独裁政権に対し、左派勢力が統一されて武装抵抗に立ち上がった。そして、日本の四国ほどの国土しかない同国で凄惨な内戦がはじまった。そんな時期の1980年代後半、同劇場で現代演劇の上演に立ち会ったことがあった。100周年を迎え盛大な記念行事が行われたことを知り、感慨深い。

内戦当時、劇場の周りには重武装の兵士が要所を固め、パトロールもしていた時期で夜10時には外出禁止の戒厳下にはいるため劇場ばかりでなく、すべての興業が観客が10時前に帰宅できるように終演時間が設定されていた。そして、当時の同国芸術界は沈滞していた。大衆芸能の分野でも人気歌手であったアルバロ・トレスなどは国外に拠点を移し、国内ではクンビアのローカルバンドだけが庶民に生きがたい世情を慰めるように活動していた。

1992年1月、12年の内戦に終止符を打つ和平合意が締結された後、この国の復興は目覚ましかった。隣国グアテマラやニカラグアも同じような内戦を経験した国だが、内戦後の復興ではエルサルバドルがもっとも堅実である。それは“中米の日本”といわれるほど勤勉な国民性によるもので、日本の企業は安価で質のよい労働力を見込んで内戦前から進出していた。

そんな同国の復興を象徴するものとして創立100周年記念行事が行われたように思う。その様子を伝えるマスコミ各社の報道ぶりから祝賀的雰囲気がよく伝わってくる。

同国で随一の約100年の歴史をもつエル・サルバドル交響楽団や、国立合唱団、エル・サルバドル歌劇団から44名の若手歌手たちが集結したオペラの名曲を披露するガラ・コンサートが行われ、劇場前広場ではマヤ文明圏の南端に位置した同国らしく、マリンバ合奏による民俗音楽の演奏での民俗舞踊、さらに劇場のファサードそのものをステージとした同国のサーカス団による華麗なパフォーマンスも行われ、祝賀イベントに華を添えた。

内戦終結からすでに4半世紀を迎え、今更ながらに同国民は平和の尊さを噛みしめたことだろう。

(エルサルバドル●上野清士)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ4月号に掲載されています。
こちらから購入ができます。