期待の新星ガタのあまりにも早すぎる死

記事中で引用した歌詞が含めれるミニアルバム。フェデリチの代表作は『キャリバンと魔女』(以文社)として邦訳も出ている。

記事中で引用した歌詞が含めれるミニアルバム。フェデリチの代表作は『キャリバンと魔女』(以文社)として邦訳も出ている。

女性ラッパーとして着実にキャリアを積み上げていたガタ・カッタナ(Gata Cattana)こと、アナ・イサベル・ガルシア(Ana Isabel García)が3月2日若干26歳でこの世を去った。先月末には公共放送TVEの音楽番組ラジオ3でパワフルなライブを見せていただけに、彼女の突然の訃報は大きな驚きを持って受け止められている。

スペインの女性ラップのパイオニア、マラ・ロドリゲスの後継者とも目されていたガタ(「雌猫」を意味する)は2012年にネットで発表した『Los siete contra Tebas 』でMCデビューし、2015年発表の『Anclas』でヒップホップ界注目の新星となった。コルドバ出身でエンリケ・モレンテ一家やロック・フラメンコのトリアナを聴いて育ったと自ら語るように、サウンドにもリリックにもフラメンコ、さらにはアンダルシアの文化全般の影響が色濃く刻まれている。グラナダ大学で政治科学を収めたガタが扱うテーマは国内政治や国際情勢はもちろん、フェデリコ・ガルシア・ロルカから「キンキ(英語のチャブズに相当する)」と呼ばれる労働者階級の若者文化まで多岐に渡る。こうした引き出しの多さも彼女の大きな魅力だった。そして「夜はラッパー、日中は詩人、時々政治学者」とツイッターの自己紹介に記す彼女が綴るリリックには繊細な詩情と明確な政治的主張が絶妙なバランスで混ざりあう。

私はニナ・リッチの香水にへつらわない/シルビア・フェデリチの本がいい(「La Prueba」より)

近年、スペインのフェミニズムに大きな影響を与えたシルビア・フェデリチへの言及が象徴するように、近年のスペインにおける政治的ラップとフェミニズムの隆盛を象徴する存在と言っても過言ではない。マチズム体質が批判される男性中心のラップシーンの変革者としても期待を寄せられていたことは今年1月エル・パイス紙に掲載されたインタビューの見出し「ラップにおける女性の大きな希望」からもわかるだろう。

詩人としてはグラナダのポエトリー・スラム(ポエトリー・リーディング大会)の2014年チャンピオンに輝き、昨年11月に初の詩集『Escala de Mohs』を発表している。

初のフルアルバム『BANZAI』完成直前の死。ハードコア・パンクからヒップホップに入ったベテラン、ダヴィド・ウニソン(David Unison)がプロデュースを手がけ、マルチな活動で知られるアーティスト、シルビア・ビアンチ(Silvia Bianchi)がアートディレクションを担当した本作は予定通り今年中に発表となる。

(バルセロナ●海老原弘子)


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