ロジャー・ウォーターズが突きつけたメキシコ大統領とトランプ候補へのNO!

ロジャー・ウォーターズのフォロー・ソル公演で投影された言葉、「 トランプ、おまえはバカだ」。 © Gabriela Ortiz Nava

ロジャー・ウォーターズのフォロー・ソル公演で投影された言葉、「 トランプ、おまえはバカだ」。
© Gabriela Ortiz Nava

元ピンクフロイドのロジャー・ウォーターズが、メキシコ・ツアー中に起こした行動が賛否両論を巻き起こしている。2016年9月29日、約5万8000人の観客が集まった、メキシコシティのフォロー・ソル公演では、会場に巨大な豚の形の気球が上げられ、そこには、「私たちには43人(2014年9月26日より、ゲレロ州で行方不明になっている43学生)と、数万人が足りない」、「政府がやった」という言葉が刻まれていた。ウォーターズは、同公演中、米国大統領候補のトランプ批判や、43学生の家族と面会したことをスペイン語で告げ、2012年から2万8000人の行方不明者を出しているメキシコの状況に抗議し、同国のエンリケ・ペニャ・ニエト大統領に対しての辞職を要請。会場の巨大スクリーンには、「トランプ、おまえはバカだ」、「(メキシコ大統領)はやく辞めろ」という言葉が投影された。会場からは、「ペニャはでていけ」という言葉が合唱のように湧き上がった。

彼が、あまりにも直接的な政治発言をしたことは、国じゅうで大きく報道され、その後10月1日のメキシコシティ大広場ソカロでの無料コンサートの中止も囁かれていた。というのも、メキシコでは、外国人による政治活動が、禁止されているのだ。マヌ・チャオが、2009年のグアダラハラ国際映画祭にて、当時、ペニャ・ニエトが知事だったメキシコ州のサン・サルバドール・アテンコで、国際空港建設反対の市民への粛清を指示した事件を批判し、表現活動を政府から禁止される騒動も起こった。マヌはそれから約10年メキシコを訪れていない。

だが、ウォーターズのソカロ公演は敢行された。11万近くの観衆が、メキシコ全土から集結し、周囲はカオスとなった。そして、ソカロにある大統領府の目の前で、前公演と同様に、トランプとメキシコ大統領批判を堂々とやってのけた。

そんなソカロ公演で、無数の人々が政府への怒りを表明した翌、10月2日に行われた、トラテロルコ事件(1968年メキシコオリンピック開催に反対する学生を中心とした400人以上を、政府が虐殺した事件)メモリアル・デモでは、1万に満たない人々がソカロに集結して終わったのは、皮肉であったが。

ウォーターズ公演は、国民のガス抜きとも批判されるが、世界の目を開かせたのは有意義だった。ただ、この歴史的公演が終わったあとも、メキシコでは日々人々が消え、遺体が見つかり続けている。

(メキシコ●長屋美保)


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