新刊「ペドロ」の出版で再確認した現役であり続けるロッカーの姿

第22回国際ブックフェア注目の新刊「ペドロ」 © Oscar Chambi

第22回国際ブックフェア注目の新刊「ペドロ」
© Oscar Chambi

毎年、独立記念日に合わせて開催されているリマ国際ブックフェアで、今回最も話題を集めた一冊はジャーナリストのマビラ・ウエルタス著作の新刊「ペドロ」だ。ペルーを代表するロック歌手であるペドロ・スアレス・ベルティスの誕生から、幼少期のエピソード、さらに高校時代のバンド活動、80年代後半から90年初頭にかけて一世を風靡した「アレナ・ハッシュ」のデビューからその消滅までが、当時の関係者のインタビューを元に詳細に記されている。
ペドロが高校生だった1985年、同級生2人と弟のパトリシオで結成したのが「アレナ・ハッシュ」だ。若干16歳だったにも関わらず、すでに秀でた才能を発揮し、作詞作曲を始めていた。メジャーデビュー前に、メンバーのひとりが脱退し、現在俳優として活躍しているクリスティアン・メイヤーが加入。88年に発表されたファースト・アルバムは、ペルー・ロック史上最大の売り上げを記録した。
ラジオの黄金期だった当時、大手のラジオ局は番組スポンサーのお抱えアーティストの曲を優先的に放送するのが常識だったが、大勢のリスナーからリクエストが殺到し、どこのラジオ局も一日に何度も彼らの楽曲をオンエアしていたと言う。まさに、彼らはペルーのアイドル的存在だった。91年には、セカンドアルバムを発表し、好調な売り上げを記録。翌年、米国市場への進出を目指して渡米するも、音楽性の不一致や個々の目標の相違が明確となり、93年にはバンド活動を終了した。そして、ソロ活動を始動したペドロは、次々とヒット曲を生み出し、幅広い世代に愛されるミュージシャンとしての地位を築いた。
しかし、本誌でも以前紹介したように、ペドロは10年ほど前から運動ニューロン疾患による構音障害を発症。今回の出版に伴い行われたインタビューで、現在では音楽活動はもとより、日常生活を送る上でも困難を抱える状態にあることを語った。
それでもなお、彼は、様々な活動を続けている。地元紙で週一回掲載されるコラムの寄稿や2冊目となる著書の執筆、さらに、今年1月には、10年ぶりの新曲を発表した。メインで歌と演奏をするのは公認バンドだが、2011年に録音されたと言う彼の肉声も随所に鏤められている。また、つい先日公開された同曲のPVには、ギターを演奏するかつてのペドロの姿も映し出されており、改めて、現役であり続ける彼の想いを強く感じさせられた。なお、この動画は公式YouTubeで視聴が可能。

(リマ●川又 千加子)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ9月号に掲載されています。
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