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岩川光インタビュー


Q:あなたはなぜ南米の音楽に惹かれ始めましたか?

A:僕の場合、まず楽器に惹かれました。
僕は、物心ついた頃から、いわゆる西洋のクラシック音楽がとても好きでした。特にJ.S.バッハやドビュッシーに影響を受けた記憶があります。ただ、別に音楽一家というわけでは全くなかった。それどころか、父親は聾者ですから、その影響が大きく、音楽とはもっとも縁遠い家庭であったと思います。
その後、7,8歳の頃でしょうか、たまたま手に取った音源にケーナの音が入っていた。もちろんケーナと言う名前も知りませんでしたし、どういう形をしたものかもさっぱり見当が付きませんでしたが、音色に惹かれました。ただ、何だかとても音痴な笛だと思いましたが(笑)
そして9歳頃、幸運にも実際に楽器を手にし、吹き始めるわけですが。
そこからですね、音楽のみならず南米に強く興味を持つようになったのは。
「なぜ」という、惹かれ始めた理由についての答えになっているかどうか分かりませんが。

Q:あなたが今感じている南米の音楽の魅力とは何ですか?

A:これは上の質問への答えとも関連すると思いますが。まず「南米の音楽」と一括りに語ることは、あまりにも安易であり、時に危険ですらあります。
僕自身はその資格を持ち合わせていません。
しかし、例えば僕が今住んでいるアルゼンチンのブエノスアイレスの音楽の現状を見ていて、その魅力と感じるのは、各々の「根」を今日的感覚に消化し、昇華させていく力と、またそのカオティックで有機的なシンクレティズムを繰り返し続ける多様性です。インターネットが世界を、旅や冒険をしやすくし、小さくし続けている今日、かつて地球上に広がる海原を縦横無尽に駆け抜けた人々が行った交流と交感の、その先にあるような結びつきは、その意志さえあれば、いつでもどこでも始められるんだろうと思います。
そしてそれを許すというか、そういう多様性に対して寛容な姿勢が、ことブエノスアイレスなんかにはあります。
僕がここに住む理由の一つでもあるかもしれません。また同時に、僕がここで音楽をつくりたいと思う理由でもあるでしょう。
そして大切なのは、そうした文化的事象の体現者ともいうべき音楽家がいるわけです。これは非常に魅力的なことだと思います。この事実は、彼らの音楽を聴けば、耳に対して明らかに響くのです。
ただしラパスやキトにも住んだ経験から言えば、この「開かれ方」については決して、一概に言えることではないことも注意しておきましょう。その違いもまた面白いんですよ、実は。

Q:今回、どんな演奏をしたいですか?

A:僕が常々思い続け、また折に触れ発言し続けていること(もちろん日本だけじゃなくて、ボリビアやエクアドルやアルゼンチン、どこでもです)に、こういうのがあります。
「自分が演奏する楽器=ケーナが生まれた土地への深い畏敬の念を持ち続けるために、私はいつも自分の演奏法、そして音楽的には、この素晴らしい笛を用いて自分が述べたいことを表現する方法を、探究し続けなければならないのだ。
そんな私の意見では、他の音楽家がやって来たことを、ただ模倣することに終始するなど、あまりにも簡単すぎるし、敬意の欠如とも思えるのだ。」
当たり前のことですが、僕はアルゼンチン人でもなければ、ボリビア人でもない。なり得ません。
また安易に彼らの音楽や文化を、したり顔で、全て知っているかのように語ること、伝承者であるような立ち居振る舞いをすることは、何とも不遜で安易だと思っています。
当然ながら、僕には僕の根があります。そして僕が経験した文化との接触、音楽との出逢い、そう言ったものすべてが僕のその根に吸収され、僕の音楽的な栄養になっていると信じています。
そうした邂逅への敬意としても、僕は僕の音楽を作っていかなきゃいけないと信じています。
完全なオリジナルなんて、人類史上、存在するわけがありません。しかし、コスプレやコピーや真似事を、自分の音楽として人前に見せびらかすというのは、僕は自分自身に対しては許すことが出来ないのです。
今回の演奏ではほとんど僕の曲をやることになると思います。まだ考え中ですが。そんなことより、今回はゲストが素晴らしいのです。佐藤芳明さん、鬼怒無月さん、そして岡部洋一さん。
奇跡としか言いようのない共演者です。それだけでも僕はとても喜んでいますし、楽しみです。

Q:影響を受けた南米の音楽家がいれば教えてください。

A:南米の音楽家というと・・・
ケーナ奏者としてはわが師でもあるRolando EncinasとOscar Cordobaを挙げざるを得ないですね(笑)
広く、南米全体で見れば、ブラジルのEgberto Gismontiを聴くことはいつも大きな喜びです。またHermeto Pascoalは音楽と戯れることについての心の師と言ってもいい。またアルゼンチンでは今や僕の大切なパートナーにもなったQuique Sinesi、8月の共演以来、ともに音楽をすることを許されているDino Saluzziとの出逢いは、音楽家としての僕の人生を変えるくらいの衝撃的な影響があったことをここに告白しておきます。
歌い手としては友人でもあるSilvia Iriondoがほんとうに好きです。
またRicardo CapellanoやJuan Falúといったギタリスト/作曲家の音楽を、アルゼンチン音楽の中では非常によく聴いています。
ただ僕は、リコーダーを通じてバロック音楽を学んだ経験もありますので、南米の括りなしで言えばFrans BrüggenとDan Laurinは演奏家としていつも大きな存在でした。また世界の笛吹きという意味では、Hariprasad Chaurasia、Kudsi Erguner、そしてTheodosii Spassovの音楽を聴くことはいつも素晴らしい刺激です。

Q:今、共感している南米の音楽家がいれば教えてください。

A:前述のようにDino SaluzziやQuique Sinesiと共に音楽をすることは大きな喜びです。またJose Saluzziとやっている音楽もとても面白いし、彼の音楽性にも共感しています。Serkan YilmazやNora Sarmoriaとの共演もいつも楽しいですね。