デジタル化と収納に悩むブラジル音楽の裏事情

今年8月に新装開店したばかりの「ジスコテカ・プブリカ」©Wilson Avelar

今年8月に新装開店したばかりの「ジスコテカ・プブリカ」©Wilson Avelar

 

ブラジルがいかにポピュラー音楽に恵まれた土壌であるかは、言うまでもないだろう。ジャンルを問わず傑作、名作と讃えられるアルバムは枚挙に暇がない。しかし、それゆえの悩みもある。

9月末にリオ・デ・ジャネイロの映像と音のミュージアム(MIS)に、国内で音源や音楽にまつわる資料を管理する団体の代表が集い、様々な問題についてのシンポジウムを行った。

イベントに臨んだのは、会場となったMISの他、モレイラ・サーレス財団、クラヴォ・アルヴィン文化財団など、音源管理におけるブラジル有数の団体だ。

7万7千枚のレコードを収蔵するMISは今年、アリ・バホーゾが名曲「アクアレラ・ド・ブラジル」の作曲に使ったピアノの寄贈の申し出を受けたが、管理するスペースがなく、これを断った。

オンラインのブラジル・ポピュラー音楽辞書の運営でも知られるクラヴォ・アルヴィン文化財団(ICCA)は、自らの資料館が飽和状態で、リオの国立文書館に管理の一部を委ねている。

各団体とも管理スペースの不足を最大の問題として抱えており、ICCA代表は、大学や自治体あるいは企業の支援が不可欠と説く。

一方、ベロオリゾンチ市で、個人でレコード館「ジスコテカ・プブリカ」を営むエドゥ・パンピーニ氏は、収納スペースの拡充を求めて、かつてクルビ・ダ・エスキーナが活動していたサンタ・テレーザ地区に拠点を移した。企業からの助成を得た結果による引っ越しで、現在約2万枚の収蔵を更に増やしていく意気込みだ。ブラジルでも昨今、“意識の高い”アーティストがLPで新作を発表する傾向にあり、その収蔵にも尽力していくとのこと。

パンピーニ氏は、各団体に共通のスペースの問題に加えて、過去の音源のデジタル化が著しく遅れていることを嘆く。その理由のひとつとして、著作権や原盤権がデジタル化推進の妨げとなっていると説いた。実際に話を聞くと「おまけに日本人コレクターが買い漁るために、レコードでですら入手できない作品も多いんだ」とチクリ。

CD販売が下火で、昔のことに執着しない国民性もあってか、音源のデジタル化や収蔵の問題は、今後も解決されそうにない。

(リオデジャネイロ●仁尾帯刀)


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