パナマ運河拡張工事が完了〝賛歌〟が次々に発表される

6月26日に新たに開通した3つめのレーン

6月26日に新たに開通した3つめのレーン

ラテンアメリカ諸国への関心がリオ五輪の開幕に向けたさまざな話題に集約されていた頃、太平洋とカリブ海(大西洋)を繋ぐ海の大動脈パナマ運河の拡張工事が終了、盛大な祝賀イベントがパナマで行なわれていた。そしてパナマ音楽界はこれを祝ってさまざまな祝賀賛歌を書き歌っていた。いまもその余韻のなかにあるだろう。

1914年、米国によって建設されたパナマ運河は20世紀最大の土木工事といわれたが、それから100年、船舶は巨大化し、大海を行き交う物量は飛躍的な拡大を遂げた。そして、パナマ運河は手狭な施設となっていた。拡張工事は1999年に米国からパナマに返還される以前からあった計画だ。約10年を費やして完成したパナマ新運河の総工費55億8100万ドル(5916億円)。今後、この工費を回収するため運河通航料金の大幅な値上げが必要といわれる。

この新運河の完成を祝って、たとえばセリーヌ・ディオンによく似た人気ポップス歌手エリカ・エンデルが自作自演した『私の運河』という賛歌を発表。「様々な言葉が行き交う運河、世界の結びつきを強める運河、未来のために」と手放しで新運河の開通を祝う。バジェナード・アコーディオンで味つけした民族色の濃い歌。加えてサルサを取り込んだ『エル・ルガール・ケ・メ・ビオ・ナセール』では新運河を同国各界各層が祝うという、すこぶる愛国主義的な内容でビデオ・クリップをみると独特の民族衣装や手芸モラの担い手として有名な先住民クナ族なども登場する。

パナマ運河に関しては、これまで幾度か歌の主題となったことがある。運河の存在は、パナマではあらゆる表現活動にインスピレーションを与える存在だろう。最近では、運河開通100周年を祝った2014年、米国からの返還があった1999年、加えてパナマの英雄、故オマール将軍治世時代、米国から運河の返還を実現させるため国民の民意を統一するための民族運動のなかで自然発生的に生まれた民衆歌など、たくさんの作例がある。パナマ最大のスターでありサルサ歌手ルベン・ブラデスも返還前の代表的なアルバムで、運河建設に従事した西インド諸島出身の労働者のなかに父親がいたことに触発された「ウエスト・インディアン・マン」を自作自演している。

パナマの音楽家にとって「運河」の存在はさまざまな意味で創作の源泉のようだ。

(パナマ●上野清士)


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