メキシコの俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが、『太陽のかけら』(2007)に続き、2作目にあたる長編劇映画監督作品『Chicuarotes』を制作中だ。2018年1月の1ヶ月間に、メキシコシティ南部、ソチミルコのサン・グレゴリオ・アトラプルコ(以下サン・グレゴリオ)地区にて撮影を行った。同地区は、2017年9月19日に起こったメキシコ中部地震で、多大な被害があった場所だ。同作制作会社アマラントの発表によれば、ガエルは、撮影中にこう語っている。「ロケの間、ストレスや悩みもなく、この映画の撮影を心から楽しんでいることに、自分自身も驚いている。それは、心から作りたい映画を作っている幸運に恵まれているからだと思う」。
この映画は、震災の被害があったサン・グレゴリオの復興支援目的もあるが、ガエルは、7年前から同地区を度々訪れ、ロケハンや調査をしていた。「僕もスタッフも、この地区の人々の温かさに惚れ込んでしまった。この地区には面白い出来事がたくさん起こる。メキシコシティの震災被害を象徴する場所でもあるけれど、それを超えたエネルギッシュな部分もある」。
タイトルの『Chicuarotes』とは、サン・グレゴリオの土地に住む人々のことを指す。 切迫した情況下にある二人の青年が、金策を講じて悪戦苦闘するが、そこには犯罪の陰が忍び寄っていた…という物語を、コミカルに描く。「でも、ハッピーエンドで簡単に終わるような映画ではない」と、ガエルは語る。メキシコ社会内の差別を扱いながらも、鋭さに欠ける演出と、物語性で、駄作の烙印を押されてしまった前作『太陽のかけら』だが、今作では、その汚名挽回となるか、期待したい。
さて、そんなガエルに水を差すような出来事が起こった。2月1日に 、ソチミルコの市民団体が、「サン・グレゴリオの再建支援と経済活性を約束すると言って撮影をしたくせに、地元の人たちを散々利用して、何も還元していない」と、ガエルを訴えているのだ。しかし、この市民団体代表の女性は、汚職で悪名高き元ソチミルコ行政区長の妻であり、次期区長の候補者であることから、これから行われる総選挙に向けて、アピールをしているのではと、ささやかれる。そもそも、一俳優を訴えるよりも、支援を滞っているメキシコシティ政府を訴えるのがスジではないか?
この騒動との関連は不明だが、ガエルは、盟友である俳優のディエゴ・ルナや、彼らも運営に関わるドキュメンタリー映画祭アンブランテが行っている、メキシコ大震災支援プロジェクト、「LEVANTAMOS MEXICO」にて、世界中から集まった義援金、およそ2億8500万メキシコペソを、震災の被害にあった地域の家屋の建設に充てると発表。 2月15日から、順次供給を始めていく予定だ。
(メキシコシティ●長屋美保)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年3月号に掲載されています。
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