「公共テレビに音楽番組を!」 ヘビメタボーカリストの願い

 

カチートスに出演したペレス・クルスは『ランバダ』をカバー。

カチートスに出演したペレス・クルスは『ランバダ』をカバー。

ヘビーメタルバンドLujuriaのボーカルであるオスカル・サンチョが「公共テレビに質の高い音楽番組を!」というキャンペーンの発起人となり、ネット上で賛同の署名を集め始めたのは昨年8月のことだった。というのも、80年代の『ムシカ・エクスプレス』からレギュラー枠で若者向け音楽番組を放送していたTVE(スペイン公共テレビ)では、2006年末に『ムシカ・ウノ』の終了以降、現在の音楽シーンを伝える番組が姿を消してしまったからだ。その一方で、TVEが力を入れているのが2001年に始まったスター発掘養成番組とリアリティショーを融合した『OT(オペラシオン・トリンフォ)』。TVEが放送する欧州の国別対抗歌合戦『ユーロビジョン』の代表選考の場ということもあり、看板番組の一つとなったOTはすでに9年目に突入している。署名を募るメッセージでサンチョは「音楽はコンクールや競争の対象と化してしまった。そこでは〝新たな才能たち〟が、不健全さや口喧嘩、視聴率を競うという音楽以外の目的で歌を利用する」と嘆く。「もはや音楽は文化でも、娯楽の中心でもないのか?」と問いかけるサンチョに賛同する署名は今年に入って1万五千に達した。
 『ムシカ・ウノ』打ち切りの理由は視聴率低下とされたが、テレビ全般の視聴率が下がっている状況では、音楽番組の数字だけが突出して悪いわけではない。例えば、同局の第二チャンネルLA2で2013年秋から放送されている『カチートス・デ・イエロス・イ・クロモ』。キコ・ベネノの歌詞から取った番組名はカセットテープを意味し、当局のアーカイブに残る国内外のミュージシャンの映像を「眠らないための音楽」「愛の歌(とギター)」などテーマ別に編集して紹介する番組だ。音楽シーンの動きを振り返ることで社会や風俗の変遷も概観できることから、娯楽カルチャー番組として地味ながらも一定の支持を集めてきた。今回大晦日の四時間特番では過去の映像を発掘するという原則をはずして、フリオ・イグレシアスやエル・ウルティモ・デ・ラ・フィラの往年のヒット曲をエストーパやラブ・オブ・レズビアンといった若者に人気のミュージシャンがカバーするという企画を第一部に加えて放送。裏で放送された大物歌手アレハンドロ・サンツの特番を抜いて視聴率第三位という大成功に終わっている。サンチョが言うように、音楽が競争のツールとなった番組ではなくて、音楽そのものを楽しむ番組を見たいという人々がそれなりの数いることは間違いないようだ。
 スペインでは国民党ラホイ政権の行き過ぎた公共放送への介入が問題となり、公共放送の役割が改めて問われるている。草の根からのイニシアチブがTVEの番組編成に影響を与えられるか興味を持って見守っている人々は少なくない。
(バルセロナ●海老原弘子)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年2月号に掲載されています。
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