ブルターニュの重鎮、ジル・セルヴァが新譜をリリース !

GILLES SERVAT  『70 ans …. à l’Ouest !!!』(2017)

GILLES SERVAT
『70 ans …. à l’Ouest !!!』(2017)

2年前、70歳を迎えたジル・セルヴァに新しいアルバムのアイデアがわいた。題して『70 ans …. à l’Ouest !!!』。日本語に直訳すれば『70歳… 西にて!!!』。西とはフランスの西、つまりブルターニュのことだが、もうひとつ、西は突拍子もないことをやり出し、普段とはちょっと違った精神状態であることを表すらしい。ブルターニュのコープ・ブレーズよりこのアルバムを発表したのが昨年6月。お披露目ツアーはブルターニュを中心に今年一杯続く予定だ。1971年に『白いアーミン』でレコードレビューしたジル・セルヴァはこれまでに20数枚のアルバムを発表してきた。
ブルターニュ南部のナント出身の両親のもと、スペインとの国境ピレネー山脈に近いタルブで生まれたジル・セルヴァはフランス中部のショレという町で育った。アンジェの美術学校を卒業したあとパリに出た。時は1968年のパリ五月革命の後でもあった。モンパルナス駅のあたりは今もブルターニュ人が多く住む界隈だが、当時はブルターニュ人たちが集まっては白熱した議論を展開していた。彼らの心の拠り所でもあった「ティ・ジョス」の店で70年春に初めて『白アーミン』を披露したのがその後45年以上にわたる芸歴のスタートであった(本誌2006年3月号にインタビュー記事掲載)。ブルターニュ語を初めて耳にし、その詩の響きに魅せられたのは69年にロリアンの沖に浮かぶグロワ島に渡ってからだ。1971年に始まったロリアン第1回フェスティバル・アンテルセルティックにジル・セルヴァはアラン・スティーヴェルらと共に出演している。
12曲収録された本盤には「マイノリティの言葉」と題するメドレーがある。ブルターニュ文化とブルターニュ人にとって不可欠なアイデンティティ、それはブルターニュの言葉だという確信で、ブルターニュ語の「イエズー・ビハン」とブルターニュ東部方言のガロ語で歌う「デプティット・パルルマン」だ。そして「メドレー・ブレース」ではブルターニュ語の「メ・ガルジュ・ブー」と74年の「ツバメ」や91年の「ケンペールの道」の歌詞を変更してリメイクされ、今のブルターニュに敬意を示すべく壮大なひとつの曲に仕上げている。最もロック的な曲、82年の「グロ・プランとミュスカデ」も新アレンジで収録。タイトルにあるふたつの白ワインの名はナント市内の地区の差を皮肉ったものだ。
今までジル・セルヴァが語ることの少なかった幼年期の思い出も「僕の子供時代のショレ」で淡々と回想している。最後の収録曲はファンに感謝の気持ちを表す意味で98年の「僕の心の中に」をしっとりと歌い上げる。その深い低音が心の隅まで染み渡る。本盤はいわばジル・セルヴァの人生を総括したアルバムともいえよう。(パリ●植野和子)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年2月号に掲載されています。
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