先月号『2017年ベストアルバム』の項でも触れたが、ポルトガル音楽シーンは全ジャンル全方位に大充実の一年であった。年末にかけて各メディアが国内の音楽シーンを総括したベストアルバムのリストを発表したが、媒体により選出作品や順位が大きく異なっており、2017年を代表するに相応しい作品が多かったことを物語っている。当欄では主要メディアの選んだ最優秀作品を中心に、いくつか紹介していこう。
国営ラジオ局アンテナ3が選んだベストアルバムはラッパー、スロウJのデビューアルバム『The Art of Slowing Down』。シングル曲「Vida Boa」はYoutubeで200万回再生され、街中でもよく耳にした昨年の大ヒット曲だ。今作がデビューアルバムではあるが、レコーディングエンジニアとしてロンドンで修行し、帰国後は人気歌手のレコーディングなどに携わってきた裏方出身だけあり、その完成度は高い。一方で、国内唯一の音楽誌ブリッツが最優秀アルバムに選出したのはエレクトロポップの覆面二人組エルモの『Lo-Fi Moda』。内省的な泣きのメロディとポルトガル語詞に絡む実験的な音響は、英語圏のエレクトロシーンにも呼応する。そして日刊紙プブリコは国内外の作品混同の総合ランキングを発表しており、国内アーティストの最高位は女性ファディスタ、アルディナ・ドゥアルテの七作目となる『Quando Se Ama Loucamente』の2位。
また、各メディアのランキングで必ず上位に名前が挙がり、インディー系メディアで多く一位を獲得していたのが、男性SSWルイス・セヴェーロが自身の名を冠した作品『Luís Severo』。ギーク風の個性的な外見や一度見たら忘れないMVとポップなメロディから、ゼカ・アフォンソやセルジオ・ゴディーニョら、ポルトガルSSWの系譜に新たに名を連ねる逸材として要注目の存在だ。同じくSSWものでは、男性SSWベンジャミンがロンドン在住時に知り合った英国人男性SSWバーナビー・キーンと共作し英語・ポルトガル語詞半々で構成された宅録ポップアルバムの『1986』も多くランクインしていた。
音楽シーンの出来事としては、昨年ポルトガルで最もグーグル検索されたキーワードがユーロヴィジョン2017で優勝した歌手「サルヴァドール・ソブラル」であったことからもわかるように、この初優勝は社会現象であった。2018年も、ポルトガル音楽が世界中の多くの人々に届くことを願うばかりだ。
(ポルトガル●山口詩織)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年2月号に掲載されています。
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