メキシコ社会の希望、 先住民女性初の大統領候補

町に貼られた、マリチュイ支援集会のポスター

町に貼られた、マリチュイ支援集会のポスター

2017年9月に起こったメキシコ大地震からの復興よりも、2018年6月の総選挙に向け、忙しそうなメキシコの政治家たち。現政権PRI(制度的革命党)が推すのは、元メキシコ大蔵公債省大臣のホセ・アントニオ・メアデ・クリブレーニャ候補だ。2017年に汚職で逮捕された、元ベラクルス州知事のハビエル・ドゥアルテと親交が深かった人物なだけに、評判は悪い。PRIに対する不信感から、PRD(民主革命党)やPT(労働党)、MORENA(国民再生運動)など左派政党の台頭も目立ってきてはいるが、どの政党も結局は己の利害しか興味がないのに、民衆は気づいている。
そんななか、ハリスコ州出身で、先住民ナワトルの女性、マリチュイこと、マリア・デ・ヘスス・パトリシオ・マルティネスが、次期メキシコ大統領に立候補した。伝統薬学の医師、人権活動家でもある彼女は、EZLN(サパティスタ民族解放軍)と、全国先住民議会により、2017年5月に発足された「先住民政府」のリーダーだ。メキシコ社会で未だに、差別し続けられている先住民だが、マリチュイは、そんな先住民たちの社会のなかにもある、男女差別を訴えてきた。彼女の目的は、キャピタリズムと家父長制への抵抗、環境を破壊し、先住民の土地を奪略し続ける鉱業、エネルギー産業の廃止である。ただ、無所属であるマリチュイの、大統領選への出馬にはINE(メキシコ選挙管理局)の認可が必要だ。そこで、2017年10月より、マリチュイは、EZLNの支援のもと、投票有権者たちの署名を集め、INEに交渉するために、全国各地で集会を行なっている。
EZLNが、マヌ・チャオを含める多くのアーティストたちからも支持されているように、メキシコの文化関係者たちもマリチュイを支持している。メキシコ国立自治大学、ライヴハウスや、カフェでも、署名集めの支援イべントが続々と開催され、若いアーティストたちが、グラフィティやデザインを駆使して、町じゅうに彼女のキャンペーン・ポスターを貼り、壁画を描いている。PRDの創始者で、リーダーでありながら、2014年に同党を離脱した、クアウテモック・カルデナスが、次期大統領候補者のなかで、最も明確な目的を持っていると評価するほどだ。社会の希望である彼女だが、大統領にはなれないと世間はいう。しかし、民衆が、ただ権力に屈しているだけでないことを世に示すためにも、マリチュイの闘いに共鳴するのは、あながち間違っていないだろう。
(メキシコシティ●長屋美保)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年2月号に掲載されています。
こちらから購入ができます。