ブラジル出版業界、書籍販売市場が三年ぶりに好転

『原題:Apenas Um Rapaz Latino Americano』 (「ベルキオール伝―あるラテンアメリカの若者」邦題)

『原題:Apenas Um Rapaz Latino Americano』
(「ベルキオール伝―あるラテンアメリカの若者」邦題)

あまり知られていないことだが、10月29日は、ブラジルでは「本の日」(直訳:全国書籍の日)である。となれば、出版関係者や文学関係者は、本が売れない、その原因は経済低迷にある、いや、読書の習慣が親にないから子も本を読まないのだ、だから読書の面白さを啓蒙していくべきだ、などと本を巡って“百家争鳴”状態となって、それを新聞や雑誌メディアが面白がって取り上げることになる。
今年はどうか、というと、それが久しぶりに嬉しいニュースで盛り上がっている。ここ数年、新刊書籍販売部数は前年比マイナスというのが連続して定着化してきたのだが、今年9月までの累計販売部数3億1100万部は、前年同期の2億9300万部に比して6%も増加となったのだ。3年ぶりの売れ行き増である。
こうした出版市場の活性化の一因が新興出版社の参入だ。今年に入って新たな出版社が何社も創立されているが、なかでも注目を集めているのが、Todavia出版社だ。ブラジル最大手出版社に成長したCia das Letrasで働いていた中堅編集者たちが〝集団退社〟して今年7月にサンパウロで立ち上げた会社だが、既に10冊も刊行しており、そのうちの一冊『ベルキオール伝―あるラテンアメリカの若者』は、ノンフィクション部門でベストセラーリスト入りしたのだ。
また、デジタル版書籍も数年前からリリースされている。このデジタル本は、ブラジルでは書籍市場全体のまだ1.09%に過ぎず、先進国に比べると、まだまだ未成熟ではあるが、漸増傾向にあるので、こちらも増えていくはずだ。
もう一つの“状況証拠”として、ブックフェアの盛況が指摘されている。リオやサンパウロの本場ブックフェアは言うまでもないが、地方のブックフェアもなんとも元気なのだ。例えば、10月6日から15日までオリンダで開催された「第11回ペルナンブーコ国際書籍ビエンナーレ」。1995年から2年おきに開催されているノルデスチでは最大のブックフェアであるが、今年の来訪者数は150万人を超えた。出展した出版社はリオやサンパウロの大手出版社や大学出版局に限定されず、ノルデスチのローカル出版社はもちろんポルトガルやアンゴラ、モザンビークの出版社もプレゼンスが顕在化しており、このブックフェアはノルデスチの文化イベントとしてしっかり定着した。
とはいえ、ブラジル人の新刊購入冊数は年間2冊弱と先進国水準の半分以下なのが現状だ。出版界の更なる奮闘を期待したい。
(レシーフェ●岸和田 仁)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ12月号に掲載されています。
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