ゴシックメタルバンド、ムーンスペル、リスボン大震災をポルトガル語で歌う

ゴシックメタルバンドのムーンスペル

ゴシックメタルバンドのムーンスペル

ポルトガルが世界に誇るゴシックメタルバンドのムーンスペルが、リスボン大震災をテーマにしたコンセプトアルバム『1755』を発表した。メタルは聴かない…… という読者の方もいるかもしれないが、ムーンスペルのフロントマンのフェルナンド・リベイロは、実はポルトガル音楽シーン全体にとって欠かせない存在だ。
彼は、アマリア・ロドリゲスのファド楽曲を現代ポップ風にリメイクするプロジェクト、アマリア・オージの中心人物でもあり、アルバム『Hoje』は2009年にポルトガルで最も売れたCDとなる大ヒットを記録。また他ジャンルや若手ミュージシャンとの積極的な交流、詩集の出版やコラム執筆、リスボンっ子代表として観光案内に登場するなど、一般的な知名度も高い(日本におけるデーモン小暮のイメージが近いかもしれない)。
そんなリベイロのメインプロジェクトであるムーンスペル12作目となる今回のアルバムのテーマは、1755年に起きたリスボン大震災。11月1日朝に発生したマグニチュード9とも伝わる大地震は、一瞬のうちに数万の人々を瓦礫の下敷きにし、更に港に避難した数万人を津波で飲み込み、発生した火災は一週間街を焼き尽くした。当時、ヨーロッパにおいて自然災害は神罰と考えられており、敬虔なキリスト教国家であったポルトガルに、何故このような無慈悲な「罰」が下されるのか…… 18世紀ヨーロッパ社会に大きな衝撃を与えた大災害は、ポルトガルにとっては大航海時代の終焉と近世国家への転換を意味した。
リベイロは、この大震災の生存者を歌詞の語り手として採用し、破壊からの再生や、キリスト教への疑問、死者と生者を分かつ苦悩などを歌い上げている。今作はバンド初となる全編ポルトガル語詞で、国外のファンも多いバンドだけにその反応も気になるところである。
アルバムには、その型破りな音楽スタイルや服装・発言で「パンク・ファディスタ」とも呼ばれ90年代に一世を風靡したパウロ・ブラガンサがゲスト参加。そしてビジュアルイメージにはこだわりのあるバンドだけに、アートブック付き限定盤を発売する他、コンサートでのステージ装飾も一新したようだ。また、先行シングル「In Tremor Dei」のMVは震災当日をイメージしたアニメーションで、地震発生後の街の混乱を記した当時の挿絵や記録に基づいた、ややショッキングな作品に仕上がっている。(ポルトガル●山口詩織)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ12月号に掲載されています。
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