工期の延長や開館式の一ヶ月延期など随分と待たされたが、モレイラ・サレス財団(IMS)の新設文化施設がパウリスタ大通りにオープンした。
IMSは、外交官にして銀行家であった故ヴァルテル・モレイラ・サレス(映画監督ヴァルテル・サレスの父)が1992年に創立したブラジルで有数の影響力を誇る文化財団だ。
音楽の面では、リオのガヴェーアにある施設で、例えばシキーニャ・ゴンザーガ、エルネスト・ナザレー、ピシンギーニャなど、古い時代の音楽家の楽譜やマスターテープ、レコードなどを保管し、研究者に門戸を開いている。またインターネット・ラジオ番組「Rádio Batuta」で、ブラジル音楽を深掘りするプログラムを運営している。
このたび、サンパウロの目抜き通りであるパウリスタ大通りに開館した文化施設は、同財団が初めて新設した建物で、主として写真や映像、インスタレーションなどの視覚芸術に力を入れて、展覧会などのイベントを行っていく。有力な若手によるアンドラーデ・モレティン建築事務所が設計した8階建てのビルは、現代建築の作品としても見ものだ。外観のほとんどが鉄筋と曇りガラスで作られており、夜間には巨大な提灯のように大通りを柔らかく照らす。4階にあたるエントランスホールは、腰の高さから上にはガラスがなく、一般訪問者がパウリスタ大通りを新しい角度から望めるようになっている。2階は写真専門図書館、3階は上映室・公会堂、そして5階から7階が展示室、8階が多目的スタジオが設けられている。
ブラジルには、一般訪問者をこれほどの上階まで登らせる文化施設は他にない。2つのエスカレーターを乗り継いで辿る4階をエントランスホールとしたのはそのためで、その床には、ブラジル各地の都市部でおなじみの白と黒の石畳が敷かれている。エントランスホールを高く設置することで、訪問者が各施設にアクセスしやすい作りとなっている。この建物は、おそらく今年あるいは来年の国内外の建築のアワードを受賞するだろう。それほどに魅力を感じさせる建物だ。
さて、パウリスタ大通りの文化施設といえば、これまでサンパウロ美術館(MASP)が有名で、その他にイタウ・クルトゥラル、FIESP文化センターなどがある。そして今年5月にジャパンハウス、9月にここで紹介したIMSパウリスタが開館した。さらに今年下半期にはSESCパウリスタが全館の改装を終えてリニューアルオープンする予定だ。今後、パウリスタ大通りがブラジル文化の発信地として、ますます盛んになっていく。
(サンパウロ●仁尾帯刀)
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