パナマ人気女性歌手、ベネズエラの現政権への連帯表明

エリカ・エンデール

エリカ・エンデール

ベネズエラの混乱が日々、伝えられる。原油価格の低迷を主因とする経済危機を引き金とする政情不安が日々、ニュースとして日本にも入ってくる。そして、反米左翼のニコラス・マドゥロ大統領の失政が原因だとする論調が多い。原油価格の低迷は、それを原資とする社会改革のテンポを乱した。それに付け込んだのが故ウーゴ・チャベス大統領が進めた社会主義的な政策で既得権を奪われた親米右派の保守層であった。彼らは米国の支援を受け、マドゥロ現政権と対立姿勢を強め、トランプ大統領の出現によって、その手法は過激化し、多数の死傷者を出すに至った。
最近、野党連合が組織した、マドゥロ大統領が求める憲法改正を求める制憲会議の発足の是非を決める国民投票をボイコットしようという動きに対して、パナマの人気女性歌手エリカ・エンデールが批判するコメントを発表、マドゥロ政権を支持すると宣言して注目を集めている。
エリカは、パナマの歴史、自然や風俗を賛美する愛国主義に満ちた歌や、パナマ運河を世界のひとびとを結ぶ平和の絆と歌ったりして国内では知らない人はいないという歌手だ。パナマ運河 、カリブの島々、先住民族の風俗等を背景にしてうたうエリカのビデオクリップは日々、再生されつづけている。
パナマは、その二大洋を結ぶ海の動脈であるパナマ運河の米国からの奪還闘争のなかで独自の民族主義、愛国主義が育った国だ。運河ばかりか、広大な土地を占有し、南方軍という域内最大の軍事基地を設けていた米国に対する批判的な感情はいまも強い国だ。エリカの政治的姿勢もそんなパナマの歴史が培ったものだろう。
パナマで知名度抜群のエリカが、マドゥロ大統領支持を表明し、制憲議会を設けるための国民投票に対しボイコットを呼びかける反政府派批判したのだ 。日本では反マドゥロ派の活動を是とする論調が強いようだがラテンアメリカの実情は少し違うようだ。
エリカは志半ばにして死去したウーゴ・チャベス前大統領の熱烈な支持者であった。そのチャベスが目指した社会主義的な国づくりはまだ道半ばで、マドゥロ大統領は意志をつぐ重要な役割を担っている政治家と彼女は捉える。もし、マドゥロ大統領が失脚したら、同国はますます混迷の度合いを強めるだろう。親米自由主義派が政権を獲得したとしても政情不安は収まることはないだろう。
そうしたマドゥロ大統領を支持する声は域内では多い。しかし、その声は日本には届いていない。特にインターネット上で読める海外ニュースは偏重している。残念ながらマドゥロ政権は情報戦は後手に回っている。だからこそ、エリカのような歌手が小国パナマに存在し、トランプ政権を批判していることを報告したい。

(パナマ●上野清士)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ9月号に掲載されています。
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