『シティ・オブ・ゴッド』から15年、キャストたちの現状

ゼ・ペケーノ役 レアンドロ・フィルミノ お笑い番組『パニコ』より

ゼ・ペケーノ役 レアンドロ・フィルミノ
お笑い番組『パニコ』より

ブラジル映画のファンならずとも『シティ・オブ・ゴッド』(2002年製作)を知る人は多いだろう。リオのスラムの暴力と貧困を美化したなどの批判もあったが、2004年度のオスカーで4部門にノミネートされたことは、当時、ブラジルのカルチャーシーンに大いなる自信と期待をもたらした。国の経済が右肩上がりだった時期でもあり、世界がいよいよブラジルに注目するという感触を覚えたものだった。
そんなエポックメイキングな作品から今年で15年が経った。実は『シティ・オブ・ゴッド~10年後~』というドキュメンタリ映画が2012年に製作されている。多くはスラム出身の素人から選抜されたキャストのその後を追った内容で、成功者もいれば、道を踏み外す者もあり、リオデジャネイロのスラムの厳しい現実が描かれている。ここでは、さらに5年後の話題を紹介したい。
野性味溢れる出演者の中でも、スラングを連発して強烈な印象を残したのが麻薬組織の首領ゼ・ペケーノ役のレアンドロ・フィルミノだった。フィルミノは今年、お笑い番組『パニコ』の『消費者たちのゼ・ペケーノ』という枠で、モンスター消費者と化した同役を演じて人気を博した。飲食店や商店で消費者保護法に反する些細なことを槍玉に挙げ、スラングで怒り散らすドッキリだった。反響の高さにより続編『みんなのゼ・ペケーノ』も放送された。
主役の報道写真家ブスカ・ペを演じたアレシャンドレ・ロドリゲスは、以後なかなか役に恵まれていないがキャリアを続投している。バイク便業者に履歴書を出そうとするなど、これまでに幾度も役者の道を諦めかけたが思い止まってきた。出演料の不払いや減額に悩まされたリオの仕事環境を諦め、昨年からサンパウロに移住し、もっぱら舞台役者とし活動中だ。未だにブスカ・ペと呼ばれることには、複雑な気持ちのようだ。
脇役の出演者の多くは厳しい現実の中に生きているようだ。ゼ・ペケーノの子分の役で出演した青年が、警官殺害の容疑で逮捕されるというショッキングなニュースが先月末に報じられた。
俗称「凶悪なイヴァン」で、ファヴェーラ・ヴィジガル界隈で知られた男は、麻薬組織の長であり、また同スラムを往来する乗り合いバンから不正の通行料を徴収するなどしていた。命を落とした警察は、先月23日未明にヴィジガルをパトロール中に、「凶悪なイヴァン」らの麻薬組織に銃器で襲われ、負傷した後に病院で死亡した。
映画を監督したフェルナンド・メイレレスにとって『シティ~』は大出世作だった。しかし出演者で、栄光の片鱗でも享受できたのは一握りで、中には出演したことの重みを背負いながら生きる者もいるようだ。

(サンパウロ●仁尾帯刀)


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