音楽シーンから社会を見つめる 写真家ミゲル・トリーリョ

「Rockocó」は写真がメインの「PhotoZINE」の先駆けとして再評価が進んでいる。(公式カタログ「Doble exposición」より)

「Rockocó」は写真がメインの「PhotoZINE」の先駆けとして再評価が進んでいる。(公式カタログ「Doble exposición」より)

音楽を中心としたカウンターカルチャーの現場にカメラを向けながら社会の変革を記録し続けてきた写真家ミゲル・トリーリョ。彼の初期を代表する二つの個展を忠実に再現した展示『Miguel Trillo. Doble exposición』がマドリッドのCentro de Arte Dos de Mayoで10月22日まで開催されている。
第一部の『Pop Purri. Dos años de música pop en Madrid(ポップ・プリーマドリッドのポップミュージックの二年)』のテーマは、民主化後のスペインを象徴する音楽ムーブメントで、映画監督ペドロ・アルモドバルが関わっていたことでも知られる『モビダ・マドリレーニャ』前夜のマドリッドのアンダーグラウンド音楽シーン。1982年に開催されたこの写真展では、英国のニューウェーブをなぞる形で生まれたマドリッドの「オラ・ヌエバ(新しい波)」の様子を克明に記録する作品が並ぶ。ライブ中のミュージシャンのパフォーマンスを切り取った写真は、ガラス付きの額縁の代わりにパステルカラーで塗った木製パネルの上に直接写真を貼り付けられ、BGMに被写体として登場するバンドの音楽が流れるという展示方法でも注目を集めた。
第二部は翌83年に行われた個展『Fotocopias. Madrid-London』で、トリーリョがマドリッドとロンドンで三年間に渡って撮影した若者のポートレートを集めたものだ。タイトルに表れている通りフィルムを現像するのではなく、スライドをカラーコピーして作った作品を展示した。その後、トリーリョはこの路線を発展させる形でファンジンの制作に乗り出すことになる。1980年から1984年にかけてバロックとロックをかけた「Rockocó」と命名した冊子のページは、モッズ、パンク、テクノ、ニューロマンティック……音楽と密接に結びついたファッションで自己表現する若者のポートレートで埋められていった。
ネオシュールレアリズムで写真家としてのキャリアを始めたトリーリョは、モビダ周辺の写真で注目を集めて以降は路上の若者を取り続けており、1993年には全国紙エル・パイス紙の取材で撮りためたスペイン地方都市の若者のポートレートを観光地のポストカードに見立てて実際に土産物屋で展示する『Souvenirs(お土産)』展を開催した。近年は国外の若者にも目を向けており、アジアの巨大都市の若者を写した『Gigasiápolis』には東京の若者も登場する。文化のグローバリゼーションを追いかけながら、地域性やアイデンティティといった問題に切り込むトリーリョの写真には現在の世界を考えるヒントがあるのかもしれない。
(バルセロナ●海老原弘子)


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