意図的に解体された? ヴィラーダ・クルトゥラル

先月8日に行われた、ヴィラーダ・クルトゥラルの様子

先月8日に行われた、ヴィラーダ・クルトゥラルの様子

現サンパウロ市長は、アーティストにとっては厄介な存在のようだ。
ジョアン・ドリア氏(ブラジル社会民主党)は、大統領が弾劾によって左派のルセフ氏(労働党)から中道右派のテメル氏(ブラジル民主運動党)へ移行した混乱の後に、今年1月に市長に就任した。
当初より、街の美化など様々な取り組みを、メディアを通じてアピールしてきたこともあり、就任3ヶ月の時点では、過去のいずれの市長よりも市民から高い評価を得ている。
文化事業には厳しい手を入れた。2月に市の文化局の年度予算の43.5%を凍結するという大鉈を振ったのだ。
そんななか、「ヴィラーダ・クルトゥラル」が先月8日に行われた。街の中心部を主に、一夜を徹して各エリアの舞台でライブが同時多発的に行われるイベントで、これまで国内外のスター級アーティストも多数出演してきた。
毎年、出演者リストを確認するのが楽しみだが、今年は“大物”と“外タレ”が著しく少なかった上に、市長の意向でイベントは中心街から周辺部へ拡散されて行われた。
その結果は惨憺たるもので、例年300~400万人を集めていたイベントは今年その約半分の160万人しか集めることができなかった。雨天が災いしたことは確かだが、この激減は、乏しい内容に市民が反応した証拠だろう。
盛況だったこれまでの企画に負の面がなかったわけではない。窃盗や喧嘩、あるいはドラッグやアルコールを過剰摂取する若者の姿がメディアで報じられることも少なくなかった。また毎回イベントの後に中心街に散乱するゴミの量はうなずけるものではない。
「シダージ・リンパ(清潔な街)」の名のプロジェクトを打ち立てて街の美化に尽力するドリア氏は、根っからの清潔好きのようだ。昨今、市は街の落書きやグラフィティを次々と無機質な色のペンキで上塗りし、市長自ら作業服姿でペンキを塗るパフォーマンスも発信している。
観客が少なければ、ゴミも犯罪も少ないのは当然。2014年のヴィラーダでは過去最高の128件の犯罪を数えたが、今年は10件の軽犯罪のみだった。市長にすれば、イベント中、街を安全かつ清潔に保てたのは自らのお手柄と大満足といったところか。
しかし、これでいいのか? と縮小を嘆くメディア記事は少なくなかった。10年以上にわたって成長してきたヴィラーダは、すでに街のビッグイベントとして広く認識されており、外国人訪問者も呼び込む観光資源でもある。
次期大統領選への立候補も噂されるドリア氏、現テメル大統領に次いで文化事業縮小に動けば、私たち音楽好きにとってのブラジルの魅力が、ますます失われかねない。

(サンパウロ●仁尾帯刀)


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