土地を侵し、そこに住むものを駆逐し、他からの奴隷を労働力として導入し、それらを虐げ、従えたポルトガル植民者らによって、繁栄の礎が築かれたのが現代ブラジルだ。数世紀に渡って植民地として富を収奪されたその歴史と、搾取した富を元手に、現代に至る世界のヒエラルキーを構築した西洋近代とはコインの裏表のようだ。
4月末にブラジリアの国会前で、参加者4千人を数えた先住民及びその支持団体が土地の返還を求める大規模なデモを行った。それに合わせて、著名な音楽家たちが賛同の意を示す音楽ビデオ「Demarcação Já(すぐに土地の返還を)」が発表された。
この度のデモは、予算の大幅削減により国立先住民保護財団が10年前に南マトグロッソ州検察庁と交わした州内の土地を先住民に返還する取り決めを、履行不可能としたことに対してのものだった。
先住民の土地問題についての思いを歌った音楽家や先住民リーダーの顔ぶれがすごい。マリア・ベターニア、レニーニ、ゼカ・パゴジーニョ、ジルベルト・ジル、ネイ・マトグロッソ、クリオーロ、ゼカ・バレイラなど35人が、様々な先住民社会の映像の合間に個性的な歌と踊りを披露している。
そんな表現巧みなアーティストたちの中でも、一際印象的だったのが、無言でカメラを見つめるだけの“森の哲人”アイルトン・クレナックだった。1987年、クレナックが34歳のときに国会の壇上で、先住民の人権保護を訴えるために、白のスーツ姿で顔をジェニパポの黒い汁で塗りたくるパフォーマンスを行った。それは、国家に対して戦う先住民を象徴する一幕として、未だに色褪せることのないインパクトを残している。あれから30年経った今でもクレナックの眼差しには、鋭さと説得力が宿っている。
映像後半では、ピアノを弾き語るトム・ジョビンが登場。もちろん生前の舞台上での映像だ。ブラジルの自然を愛したジョビンは、そこに生きる先住民について「インディをありのままでいさせてあげて(deixa o índio)」と楽曲「ボルゼギン」で歌った。ジョビンの映像に続いて、参加ミュージシャン皆がその一節を繰り返し歌った。
4月25日のデモは、流血騒ぎで終わった。国会議事堂のバリケードをインディオが破ったことで、軍警察は催涙弾、ゴム弾などを発砲してそれを散らし、幾人かのインディオは弓矢でこれに応戦した。
ブラジル国家が存在する限りインディオは、土地と尊厳を求める戦いを止めないだろう。平和的解決があり得るのかはわからないが、この問題を国内外の多くの人が知るためにも、今回のビデオが広く拡散、閲覧されることを望みたい。
(サンパウロ●仁尾帯刀)
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