リマ首都圏の人口は、約1000万人で、これはペルー全体の約3分の1にあたる。とりわけリマ周縁部の区に人口が集中しているのだが、その多くは50年から60年代の急激な首都の人口増加に伴い展開された組織的な非合法占拠で作られた居住地帯であり、現在では正式に行政区として認められているところが多い。
リマ旧市街から北へ約15㎞のところに位置するコマス区もそのひとつ。かつては低地部分に畑が広がるのどかな郊外だったが、今では岩盤質の小高い丘の急斜面の上層部にまで低所得者層の住居がひしめき合うベッドタウンとなっている。そして、その一画ラ・バランサ地域で、毎年、国際野外演劇祭『フィテカ』が開催されている。
地域住民であり、巨大人形を使ったパフォーマンスグループを率いるホルヘ・ロドリゲスは、このプロジェクトのディレクターを務める。「16年前に演劇グループと地元コミュニティーとの共存と交流の場を探した結果がこの祭りの開催だった」と話す彼だが、「当初は住民の参加を促しても何をどう表現したら良いのか分からないという反応が強かった」と言う。そこで、他の地域の演劇グループを招待して交流を深め、住民参加型のイベントを作り上げた。今では、すっかり地域の文化活動としてなくてはならない存在になっている。
第16回目を迎えた今年は、他の3つの地域での開催も含めて全13日間の日程となった。プログラムには地元住民も参加できるワークショップも組み込まれ、国内外から総勢50以上の演劇や音楽グループが出演し、毎日夜遅くまで賑わいを見せた。
一方、ディレクターのホルヘによると、このプロジェクトは、みんなの協力で成り立っていて誰も金銭的な報酬を受けていないと言う。それぞれが、他の活動で生計を立てていて、年に一度のこのイベントに無料奉仕するそうだ。そして、これに賛同するのは、アーティストたちだけではない。建築家や詩人、映像や音響関係者など、各分野のプロフェッショナルがそれぞれ一役買っていて、その協力体制は、年々拡大していっている。
「文化とは、単なる娯楽でもエンターテイメントでもないことをコミュニティーが理解してくれることが目標。文化は、人々が生きるために不可欠なもので、自分たちを、そして世の中を変えるのに最も重要な要素」と力説してくれた。
なお、演劇祭の会場は、以前、ゴミ溜だったという。これを変えたのは、まさに『フィテカ』なのだ。
(リマ●川又千加子)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ6月号に掲載されています。
こちらから購入ができます。