イグナシオ・バウチャウスキー「タンゴ音楽基礎講座」三年目スタート

バウチャウスキー氏による熱の入ったタンゴ講座

バウチャウスキー氏による熱の入ったタンゴ講座

ブエノスアイレスのへそに位置するパルケ・センテナリオの近くに月に一度、タンゴダンサー、ミュージシャン、愛好家で溢れる場所がある。ブエノスアイレス市主催、エル・アランケのディレクター、イグナシオ・バウチャウスキーによる「タンゴ基礎講座」である。

タンゴ音楽の面白さ・美しさは、同じ曲でも演奏する楽団によって全く違う音楽に変身してしまう。イグナシオはユーモアたっぷりに、かつ膨大な音楽サンプルを用いて各楽団の演奏の特徴や、タンゴ音楽の成り立ち、パーカッションを用いないタンゴ音楽がどのようにリズムを刻むのか等、楽器の役割や演奏法を非常に分かりやすく説明する。

3年目に入った今年の最初のテーマは「エル・チョクロ」。まずは非常にシンプルな1951年のアンジェリスの編曲。コントラバスが4拍子を刻み、ピアノがメロディーを奏でる。その上にバンドネオンが3・3・2のリズムを刻み、バイオリンが打楽器の役割を果たす。

続くディサルリの編曲は、バイオリンが歌うようにメロディーを奏でるのが特徴的で、コントラバスが1880年代に初めて現れたハバネラのリズムを刻む。バイオリンがシンコペーションを刻み、コードを一音ずつ奏でるアルペジオでピアノが演奏するソロ。シンプルな中にたくさんのタンゴの要素を含み、ブエノスアイレスっ子の口の悪さや態度、わがままさを表現してもいる。

スタンポーニの編曲は、クラッシクや現代的な要素を取り入れながらも非常にトラディショナルで、タンゴ初期のエル・チョクロに敬意を表している。同じバイオリンだとしてもピチカートなのか、弦で演奏するかで変わるように、各楽器の異なる響きが色合いと質感を与える様をディサルリのメロディーの演奏と比較。オリジナルのキーから曲の途中での転調、リズムを最後に遅くすることでドラマティックにしている。

1972年コロン劇場でのセステート・タンゴの演奏は非常に複雑なアレンジ。一つの要素をとってそこから展開させる。この曲の最初の二音で聴衆を完全に惹きつけている。話す時、抑揚で変化するようにアクセントが面白いと、バイオリンがマルカートで演奏する部分に注目。初期のタンゴで多く使われていた、ギターがかき鳴らす音の再現もある。

現在のラバジェンのトリオは生演奏を見逃さないでほしい。バリエーションはディサルリのバージョンに非常に近いが、3人で演奏しているところに注目したい。

どこにどんな器官や組織があってどんな動きと働きをしているのか。彼の講座はタンゴ音楽の解剖学と言っていいだろう。

(ブエノスアイレス●折田かおり)


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