53度目の正直!ポルトガルがユーロヴィジョンで初優勝

 

無造作ヘア、無精髭にぶかぶかジャケットがトレードマークのサルヴァドール・ソブラル

無造作ヘア、無精髭にぶかぶかジャケットがトレードマークのサルヴァドール・ソブラル

ヨーロッパの音楽の祭典、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト。年に一度、各国の代表歌手がその歌声とパフォーマンスを競う、1956年から続く伝統のイベントだ。

古くはフランス・ギャルの『恋するフランス人形』、ABBA『恋のウォータールー』などのヒット曲や、ヘヴィーロックバンド、ローディや「髭の歌姫」ことコンチータ・ヴルストの優勝など、多くの話題を提供してきたこの大会に、ポルトガルは1964年からほぼ毎年参加してきた。しかし審査員票と一般投票に基づいて決まる順位において、過去成績は最高6位と振るわず、長年「最も参加回数が多く一度も優勝経験のない国」と揶揄されてきたが、今月13日ウクライナの首都キエフで開催された2017年大会においてついに初優勝を決めた。

ポルトガル代表として出場したサルヴァドール・ソブラルはリスボン出身の27歳。人気歌手ルイーザ・ソブラルを姉に持ち、音楽オーディション番組への出場経験があるものの、学業専念や留学のため音楽活動を休止していた期間も長く、歌手として知名度は低い存在であった。昨年発表したデビューアルバムもチャート最高10位に留まり、今年の頭にユーロヴィジョンのポルトガル代表を決める国内予選Festival da Cançãoで優勝し、国代表に選出されて初めて話題になったシンデレラボーイだ。

披露した楽曲『Amar Pelo Dois(二人の愛)』は姉ルイーザが作詞作曲を手掛けた、別れた恋人への想いを歌ったポルトガル語詞のスローバラードで、ユーロヴィジョンで上位入賞する為の定石と言われる「シンプルな英語詞、王道ユーロビート風のアップテンポな楽曲、派手な演出」とはほど遠い。しかし、この楽曲は保護主義の台頭や難民問題で揺れるヨーロッパの、ポルトガル語を解さない多くの国の視聴者の心に優しく響き、多くの一般票を獲得した。

今年の大会テーマは「多様性を祝う」であったがその割に全出場国42カ国中自国語詞の歌を披露したのはポルトガル含め僅か6ヶ国。受賞式のスピーチで「意味のない、使い捨ての音楽が蔓延するこの世界で、これは意味のある音楽を作っている人全ての勝利だ」と述べたサルヴァドール。この派手とは言えない、繊細な美しい音楽で53回の挑戦の末、初めて勝利を勝ち取ったのは実にポルトガルらしい。この静かな勝利がヨーロッパの音楽の潮流を変える事になるのか、まずは優勝の喜びを噛み締めて、見届けたい。

(ポルトガル●山口詩織)


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