2012年にドン・キホーテ出版より出したグラン・コール・マラードの自伝「Patients(患者たち)」が映画化され、3月1日にフランス全国で公開された。それに合わせ文庫本も出た。1977年パリ郊外生まれのグラン・コール・マラードは身長194㎝、バスケットボールが得意でスポーツ教師になるのが夢であった。20歳を迎える直前の夏休みに友人たちとふざけあってプールに飛び込んだところ、水の深さが足りずプールの底に頭を打ちつけ、命は取り留めたものの脊髄損傷で四肢麻痺となってしまう。リハビリセンターでの一年以上にわたる厳しい訓練のおかげで松葉杖を使って歩けるまでになった。その闘病記がこの「患者たち」だ。ファデット・ドロナールと共同でシナリオを書き、メディ・イディールとメガホンをとった。撮影はパリ郊外のクルベ・リハビリセンターで行なわれた。
ファーストシーンは到着したリハビリセンターでベッドに横たわる主人公ベン(パブロ・ポーリが好演)の顔を医師や看護士、介護士や運動療法士、そして家族が入れ替わり立ち代り覗き込むところから始まる。身動きできないベンの目線でカメラが回る。上肢も下肢も動かせないベンは排尿・排便はおろかシャワー、摂食など些細なことでも人手を借りなければ何もできない。忍耐のいる日常生活、リハビリの様子がこと細かく描かれる。ベンと同様、交通事故などで四肢あるいは下肢麻痺となった20歳前後の患者たちが共有体験を語り合い、交流する姿は将来の軌道修正を余儀なくされた彼らの明日への希望を見るようだ。車椅子の患者たちの泣き笑いの痛烈なユーモアにも慣れたころ、真剣にリハビリとは何か、患者たちに接する医療従事者の仕事の大きさを感じる1時間50分だ。2003年にスラムに出会ったグラン・コール・マラードが2006年に自分の人生をスラムに託して語った「ミディ20」が爆発的なセールスを上げ、二度もヴィクトワール・ド・ラ・ミュージック賞を獲得して以来、5枚のアルバムをリリースしているが、今回さらに映像という手段に訴え、ドキュメンタリ以上の教育効果の高い映画を作り上げた。「(仏語のpatientと patienterをひっかけ)良い患者は辛抱強く待てる」「退院と出獄、病院と刑務所は同レベル?」など皮肉たっぷり、なりたくて障害者になったわけでない患者たちの生の姿を描いている。バックに流れる軽快なリズムの「テトラボックス」や最後に語りかけるグラン・コール・マラードの低音の声が心に響く。
パリの地下鉄にはエレベーターがなく車椅子での乗車は無理だが、市バスには必ず乳母車と車椅子用のスペースが設けられている。介添え者なしで一人でも車椅子で乗れる。他の乗客と変わらない風景がごく当たり前になってきたのは嬉しい。
(パリ●植野和子)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ5月号に掲載されています。
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