スピード感とノルスタルジーの107分 映画「アシェー」が上映中

サルバドールが生み、90年代、00年代にブラジル国内外を席巻したダンサブルな音楽アシェーの盛衰を描いた長編記録映画『アシェー・ある場所の人々の歌(Axé – Canto do Povo de Um Lugar)』が1月に封切られた。

「アシェーの長男」とカエターノ・ヴェローゾが称するルイス・カルダスから現在スターの座に立つクラウジア・レイチやサウロ・フェルナンデスまでの約35年に渡るムーブメントの推移が、アーティストや関係者の証言と貴重な過去の映像によって繋がれたスピード感溢れる作品となっている。

出演者は、上述の他にダニエラ・メルクリ、イヴェッチ・サンガロ、チンバラーダ、ネチーニョ、シャンジ、エ・オ・チャンあるいはそれ以前からのジェロニモ、サラジャーニ、バンダ・ヘフレクソス、マルガレッチ・メネーゼスなどアシェーのスターたちを107分の映像で余すことを紹介している。

本作は監督シコ・ケルテスによる長編処女作で、プロダクションはサルバドールに拠点を置く制作会社マカコ・ゴルドが担った。地元の制作会社ゆえの人脈の豊かさと街の文化に対する愛情がしみじみと感じられた。

商業的規模の拡大とともに、ある現象がその本質を見失い、やがて廃っていく。それは音楽のブームに限らないが、アシェーはその道を歩み、先細りした感がある。

サルバドールからブラジル全国へ、そして世界へとアシェーが席巻するにつれて、資本は全国ウケする見栄えの良いルックスの歌手に集中し、欧米ポップスに迎合する音作りとなっていった。

ファンからの反感を承知の上で、個人的にはイヴェッチ・サンガロあたりから大味なアシェーあるいは、別物のポップスになっていったように思っている。

アシェーがすっかり様変わりしてしまった代表例としてクラウジア・レイチのお色気セミヌード写真やテクノ調の曲を紹介しているが、そこで終わらせずに結末としてソロデビュー後のサウロ・フェルナンデスを、原点を見直したアシェー界期待の星として描いる。

果たしてアシェーが90年代の勢いを取り戻せるかどうかは、さておき、同時代にアシェーのリズムで踊り狂ったことのある人ならば、涙腺が緩むのを感じるだろう。DVD化を期待したい作品だ。

(サンパウロ●仁尾帯刀)


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