ツィートが原因でラッパーに懲役一年半の判決

『ビースト 獣の日』ではハードロックバンドExtremoduroとともにサウンドトラックも担当。

『ビースト 獣の日』ではハードロックバンドExtremoduroとともにサウンドトラックも担当。

1月19日スペイン最高裁はツイート上の発言が「テロの称揚」と「テロ被害者の侮辱」に当たるとしてラッパーのセサル・ストラウベリー(Cesar Strawberry)に懲役18ヶ月の判決を下した。ストラウベリーは、80年代のガリシアのパンクロック・ムーブメントを代表するSiniestro Totalの元メンバーがパブリック・エナミーやビースティー・ボーイズの影響を受けて結成したラップ・コアバンドDef Con Dosのメンバー。独特のブラックユーモアでコアなファンを持つスペイン人映画監督アレックス・デ・ラ・イグレシアの『El día de la bestia(邦題は「ビースト 獣の日」)』にデスメタルバンド役で出演しているので、目にしたことのある読者もいるかもしれない。

背景をまとめておこう。パリでのシャルリー・エブド襲撃事件で欧州全体がテロ警戒態勢に入った2015年5月、スペイン警察が「テロリズムの称揚」を取り締まる目的で開始した「スパイダー作戦」の一環でストラウベリーが逮捕された。問題とされたのは「前国王フアン・カルロスの誕生日に爆弾ケーキを贈りたい」やETAの爆弾テロで殺害された首相カレロ・ブランコへの言及を含む2013年から2014年にかけてツイート上で行った6つの発言で、検察は「テロ称揚」に当たるとして懲役20ヶ月及び16年の公職禁止、3年間の警察管理を求刑した。2016年7月全国管区裁判所が「皮肉として用いた表現だ」として訴えを棄却したものの、検察側の控訴を受けて最高裁が棄却を覆して有罪判決を下した。ストラウベリーの知名度もあって、表現の自由に関する大きな議論を巻き起こしている。

今回の判決でスペインの社会に最も大きな衝撃を与えたのが発言者が意図的に行った発言でなくても裁判所が「テロの称揚」や「テロ犠牲者の侮辱」であると見なせば犯罪が成立することで、権力側の裁量が大きすぎるため市民への弾圧に用いられる危険性も指摘される。また、同様の条文は英国やフランスの刑法にもあり、欧州連合においても「テロ行為の称揚は直接的あるいは間接的を問わずにテロ犯罪とする」ことを法制化する手続きが最終段階を迎えた。テロ問題の解決の糸口も見えない欧州で、表現の自由に対する制限が急速に進んでいる。

(バルセロナ●海老原弘子)


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