普通のクリスマスが大嫌い! ザ・レジェンダリー・タイガー・マン

クリスマスの時期、ポルトガルは華やかな雰囲気に包まれる。広場や通りを彩る眩ゆいイルミネーション、プレゼントのまとめ買いや包装を待つ客でごった返すショッピングセンター。そして25日当日、街は静寂に包まれ通りには人影もなく、人々は家の中で家族とご馳走の揃った食卓を囲み、団欒を楽しむ。人口の八割をカトリックが占めるポルトガルでは定番かつ伝統のクリスマスの光景だ。

しかし、ここリスボンにはもう一つのクリスマスの「伝統」がある。それが、ブルースマン、ザ・レジェンダリー・タイガー・マンが毎年クリスマス当日25日に開催するイベント、 『ファック・クリスマス・アイ・ゴット・ザ・ブルース(クリスマスなんかクソくらえ、俺にはブルースがある)』だ。イベント名の通り、「伝統的なクリスマスムードが嫌い」なタイガー・マンことパウロ・フルタードが1999年から行なっているものだ。

「クリスマスの時期は大抵退屈で、クリスマス・ソングの類が好きだったことは一度もないし、大半は未だに吐き気を催すね。若い頃、この時期はいつも退屈してバンド仲間と何かやることはないかとうろついてた。クリスマスに演奏するというアイディアは、伝統に対するカウンターカルチャーとして始めたものだけど、今思えば、単調なクリスマスをぶち壊す、何か面白い出来事を探してたあの時期がきっかけなのかもしれないね」

初回以来、会場はリスボン中心部バイロ・アルト地区のギャラリー兼ライヴハウス、ゼー・ドス・ボイス。今では日本でいう武道館クラスのアーティストであるタイガーマンのコンサートが小規模会場で間近に観られるとあって、毎年チケットはソールドアウト。普段のコンサート同様ワンマンバンドスタイル中心の第一部と、アコースティック、カヴァー曲、友人ミュージシャンの飛び入り参加などアットホームな第二部の二部構成で、会場はさながらリスボンのロックファンというひとつの大きなファミリーの集まりのような雰囲気だ。

このイベント成功の要因は、クリスマス嫌い達の集会という単純な理由ではないだろう。21世紀、ライフスタイルの多様化とともに、クリスマスも仕事がある人、帰る家や集まる家族がいない人など、静まり返った街の片隅で一人で過ごす人は一定数存在している。そんな人達がクリスマスに集まれる場所という意味でも需要があるのだろう。17年前の初回は会場スタッフと友人含め20人しか集まらなかったというこのイベントだが、現在は大盛況、また街を見渡してもクリスマス期間中も営業するライヴハウスやバーは年々増加しており、かつてタイガー・マンが「単一でつまらない」と評したクリスマスの過ごし方も多様化が進んでいる。

(ポルトガル●山口詩織)


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