ロス・チコス・デル・マイスが 11年の活動に終止符

最後のフルアルバムとなったブックレット付き『La estanquera de Saigón』は今のスペインの政治と社会の状況を鮮やかに切り取る作品となった。

最後のフルアルバムとなったブックレット付き『La estanquera de Saigón』は今のスペインの政治と社会の状況を鮮やかに切り取る作品となった。

スペインを代表するラップグループLOS CHIKOS DEL MAÍZ(ロス・チコス・デル・マイス以下LCDM)が昨年の大晦日、故郷バレンシアのフェスFESTIVERNで十万人を超える観衆を前に最後のライヴを行った。これで11年に及ぶ活動に終止符が打たれることになったが、彼らがスペインのラップシーンに及ぼした影響の大きさは計り知れない。「変革した」と言っても過言ではないだろう。

LCDMは2004年にNegaとToniの二人のMCにDJ Bokahというメンバーで結成された。バンド名は映画化もされたスティーブン・キングの小説『チルドレン・オブ・ザ・コーン』のスペイン語訳。反資本主義と反ファシズムというイデオロギーを掲げて政治と社会の問題に鋭く切り込むリリックで頭角を現し、米国発商業主義ラップの影響が顕著なスペインのシーンにおいて「政治的ラップ」「戦闘的ラップ」と呼ばれるジャンルの発展に大きく貢献した。失業や強制立ち退き、あるいは表現の自由や移民の権利といった身近なテーマにとどまらず、テロや君主制といったスペインでタブー視されてきた問題も正面から取り上げたことから、政治的圧力をかけられたことも一度や二度ではない。

2008年頃にはすでにコアなファンを獲得していたが、2011年に民主化後最大の市民運動15Mが起こると、人々の政治や社会問題への関心の高まりを受けて知名度と人気を拡大。同年に発表した3枚目のアルバム『Pasión de Talibanes』は売上げランキング入りを果たす。新しい左派政党として急速に支持を拡大したPODEMOS(ポデモス)の代表を務めるパブロ・イグレシアスは活動家としての盟友で、イグレシアスのスピーチにLCDMのリリックの影響が色濃いことは広く知られている。また、Negaは昨年秋に初の著作『La clase obrera no va al paraíso(労働者階級は楽園に行かない)』(AKAL)を発表。大きな話題となり、発売直後に重版となった。

LCDMの魅力は、それぞれの声の特徴を最大限に生かした語りの力だ。抑制の効いたBokahのトラックの上で怒りを表現するNegaと悲しみを表現するToniの声が重なり合うことによって、難解なマルクス経済の用語や年表のような歴史的事件の羅列までもが、人間味のある言葉として聴く者の耳に届く。解散は非常に残念だが、それぞれの今後の活躍を期待したい。

(スペイン●海老原弘子)


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