リスボンに新美術館MAATが開館

旧電力博物館本館 ©SHIORI YAMAGUCHI

旧電力博物館本館 ©SHIORI YAMAGUCHI

リスボン西部のベレン地区。このエリアは大航海時代の遺産であるジェロニモス修道院やベレンの塔をはじめ見所の多い観光地区として知られているが、一方で美術館・博物館の集中する文化地区としても名高い。モダンアートコレクションの常設展や公演ホールを備えたベレン文化センター、世界でも珍しい国立馬車博物館、古代博物館、海洋博物館、プラネタリウムに並び、ミュージアム群のひとつをなすのが電力博物館だ。

テージョ川沿いで発電所として利用されていた煉瓦造りの建物を改装、発電の仕組みや電気の働きなどを体験学習できる施設として開館したのが1990年。以来、社会科見学の子ども達や家族連れで賑わっていたこの施設が、増改築を経てこの10月、新たな博物館MAAT(Museu de Arte, Arquitetura e Tecnologia)として生まれ変わった。

「芸術と、建築と、技術のミュージアム」を意味するMAATは、前身の電力博物館同様体験型ミュージアムであり「発見と、批判的思考と、国際的な対話を提供する場」であることを目的としている。新たに建設された新館は流線形の軽やかなデザインとポルトガルらしくタイルを使用した白亜の建物で、テージョ川に反り出した姿が美しく印象的だ。開館初月だけで15万人が同館を訪れており、その出足は好調に見えるが、どうも市民から手放しで開館を歓迎されている訳でもなさそうだ。

というのも、MAATの運営母体はポルトガル電力公社によって創設されたEDP財団という機関であり、つまりその財源の大元は市民の支払う光熱費である。MAATに建築費・運営費として既に二千万ユーロ(約24億円)以上がつぎ込まれているという報道には、多くの市民が不満の声を露わにしている。特に、新館の設計を担当した英国人建築家アマンダ・レブトは、ポルトガル電力公社会長と個人的に親交があると噂されており、これだけの規模の計画にも関わらず設計デザインのコンペティションが開催されなかった点においても選考の不透明さが指摘されている。

また、ここ最近リスボンでは警備や展示状態の不備により観光客によって石像や展示物が破壊される事件が連続しているが、その中で「開かれた博物館」を標榜するMAATは施設の一部を24時間開放する方針を発表しており、その安全対策も注視されている。

MAATは来年3月まで一般入場が無料となっている(特別展示やワークショップは有料)が、果たしてリスボンっ子と観光客、双方の心を掴むことができるのだろうか?

(ポルトガル●山口詩織)


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