『クスクス・クラン』、『ママ・アフリカ』などで1990年代にMPBに新旋風を引き起こしたシコ・セーザルが、委嘱されて出身地パライーバ州の文化官僚になったのは、2009年だった。まず州都ジョアン・ペッソア市の文化局長に就任し、その1年後、今度は州政府の文化長官になる。
時にポレミックな発言で物議を醸したこともあったが、概ねそつなく「州政府高官」を5年間務めあげた2014年12月、「シコ・セーザル、連邦政府の文化大臣か」、とグローボ紙が報道し、ジルに次いで二人目の歌手出身大臣かと騒がれたが、“幸いなことに”大臣にならず、歌手活動に戻ったのが、同年の12月末だった。
2015年7月にリリースした新盤『エスタド・ヂ・ポエジア(直訳:詩の州)』は、パライーバの海岸で波の音を聞きながら作詞作曲したもので、恋の歌もあれば、州政府の文化長官として働いた時期への回顧ともいえる曲も入っているが、ここにきてまたヒットしている。というのも、10月から上映が始まったグローボTVのノヴェーラ(連続TVドラマ)「A Lei do Amor(愛の掟)」のサントラに採用されたからだ。視聴率の高いノヴェーラをみれば、視聴者は毎晩シコの最新メロディーに耳を傾けていることになり、彼の知名度が一層高まる、という具合だ。
そんなシコが、更に注目を浴びているのが、詩人としての才能だ。
昨年11月に刊行した詩集『Versos Pornograficos(ポルノ詩)』。タイトルからして『わいせつな詩』なのだから、内容もエロス礼賛に近いものだが、読了したマリア・ベタニアが「素晴らしい詩集だ、シコの詩の世界は魅力的すぎて、その虜になってしまった」と絶賛したものだから、多くのメディアの学芸欄で好意的な書評が掲載されたのだ。シコ自身もインタビューで、「エロティズムなしの人生なんて、クソ面白くもないからね」と答えたりした、このポレミックな詩集が、ブラジルの文学賞としては一番有名なジャブチ賞の最終選定候補に残っている、ということでまた注目を浴びている。(ちなみにジャブチ賞の発表は11月24日だ。)
さらに、今年7月、児童向け詩集『オレンジ検査官と愛のリンゴ』を上梓したが、これはジョアン・ペッソア市の伝統的なお祭り「フェスタ・ダス・ネヴェス」を視察している果物検査官を巡るお話で、ストーリーテラーとしての才能を発揮している、と文芸批評筋からは高い評価がなされている。シンガーソングライター兼詩人にして元州政府高官、シコの八面六臂の活躍は続く。
(パライーバ●岸和田 仁)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ12月号に掲載されています。
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