『ゼロ・グラビティ』でアカデミー監督賞を獲得し、ハリウッド映画界で活躍するメキシコ出身のアルフォンソ・クアロンが、『天国の口、終わりの楽園』以来16年ぶりに、母国を舞台にする。その新作は、『ROMA(仮題)』というタイトルで、内容については、「70年代のある中流一家の1年間の物語」としか公表されていないが、メキシコシティを魅力的に描く作品になると、制作側は公言している。
撮影監督には、エマヌエル・ルベツキ(『ゼロ・グラビティ』、『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、『レヴェナント:蘇えりし者』ほか、アカデミー撮影監督賞の常連)美術監督にはエウヘニオ・カバジェロ(『パンス・ラビリンス』でアカデミー美術賞を受賞)が担い、メキシコ出身の精鋭たちが集結。2016年10月より、メキシコシティのダウンタウン周辺や、南部で撮影中だ。
実は、筆者一家の運営する食堂の前にある現コンサートホールで、元老舗映画館であったメトロポリタン劇場もロケ地になっているため、撮影に協力している。10月31日に行われた撮影では、同テアトロを映画館時代の外装に戻し、通りには、たくさんのクラシックカーが停り、人々の服装や、周囲の店舗も70年代風に変えていた。メキシコシティ政府の公式な支援のもとに、地元の人たちとの事前交渉も穏便にこなしていたので、撮影は順調なように見えた。
だが、その翌11月1日、タバカレラ地区で撮影準備中のスタッフに対し、クアテモック行政区の職員や、機関銃を抱えた警察官たちが、「無許可で路上停車している」と、暴力的に妨害。同行政区の許可を事前にとっていたにもかかわらず、職員たちが撤去を要求してきたので、スタッフたちは、携帯やアイパッドなどで、その一部始終を撮影していた。それを見た行政側が、彼らに暴行を加え、その際に、携帯、アイパッドも取り上げたうえに、金銭までも没収。これにより、指を捻挫し、頭部を負傷したスタッフもいた。事件が起こった当日、クアロンは不在だった。
クアロンは、行政側の行為に怒り、「理不尽だ」と抗議し、国際記者会見を行う意向だったが、同行政区長が、公式文書にて謝罪し、事態は収束した。クアロンたちは、現在も撮影を続行中だ。
はからずも、行政側の醜さを露呈してしまったメキシコシティだが、その汚名を挽回するためにも、このクアロンの新作が、素晴らしいものになることを期待したい。
(メキシコシティー●長屋美保)
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