メキシコ大衆音楽の星 フアン・ガブリエル逝去

ベジャスアルテス前で追悼式前から集うフアン・ガブリエルのファンたち©MIHO NAGAYA

ベジャスアルテス前で追悼式前から集うフアン・ガブリエルのファンたち©MIHO NAGAYA

2000の曲を作り、1億枚のアルバムを売り、メキシコ大衆音楽に偉大な軌跡を残したメキシコの歌手、作曲家、フアン・ガブリエル(本名:アルベルト・アギラール・バルデス)が、2016年8月28日米国カリフォルニア州サンタモニカの自宅で、心筋梗塞のため亡くなった。享年66。

彼の生誕地、ミチョアカン州パラクアロや、少年期を過ごした、チワワ州シウダーフアレスでも、人々が哀悼の意を表した。シウダーフアレスでは、彼の記念館を建立予定だ。

訃報報道の翌日の夜に、訃報とともに、ファンが集まったという、メキシコ音楽の聖地であるメキシコシティのガリバルディ広場へ行ってみた。100人近くの人々がフアンガ(フアン・ガブリエルの愛称)の銅像を囲み、大声で歌っている。献花をするひと、フアンガのレコードジャケットを掲げるひと、記念撮影をするひとなどを見た。

フアンガの遺灰を持ってきて、9月5日に追悼式が行われた国立芸術院(ベジャスアルテス)の正面玄関前には、1週間前から、ファンたちにより、フアンガの祭壇が作られ、朝から晩まで祈りが捧げられ、名曲に込められた想い出を分かち合っていた。

そして、追悼式前日の深夜から、フアンガに別れを告げるために、メキシコ全土からファンがやってきて、ベジャスアルテス前に列をなしていた。周囲を車通行止めにし、巨大な歩行者天国となった同建物前では、無数の人びとが集い、涙を流し、歌う。入場規制の柵を群衆がなぎ倒す騒ぎもあった。式へ訪れたのは50万人以上とも報道される。

「チャベーラ・バルガスが亡くなった時も、ベジャスアルテスで追悼式が開催されたが、これほどではなかった。それは、チャベーラがエリート文化人であり、フアンガが、真の意味で民衆とともにある歌手だったからではないか」と人びとは語る。2016年11月には、メキシコシティ大広場ソカロで、彼の芸歴45周年を記念した無料コンサートが開催予定だったが、それはかなわなかった。だが、人々は追悼式後に、ベジャスアルテス前の野外ステージで2日間にわたり開催された、メキシコのスターたちによるフアンガの名曲メドレーを楽しんだ。

公表はしなかったが、ゲイであったフアンガは、メキシコのゲイコミュニティの希望の星だった。マチスモ(男性優位主義)がはびこるメキシコ社会が、彼の死と歌で結束される姿は、感動的ですらあった。

追悼式が終わり、日常が戻った今も、メキシコの街にはフアンガの歌が鳴り響いている。

(メキシコ●長屋美保)


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