ペルナンブーコ映画史におけるエポックメイキング的作品となったのが『匂い立つダンスパーティー』(1997年)であった。このパウロ・カルダス監督作品は、「従来のセルタゥンをポップに読み直した」映画と評価されたが、1930年代、義賊的匪賊カンガセイロの頭目ランピアゥンと行動を共にしたレバノン人写真家ベンジャミン・アブラアンの眼を通してみえたセルタゥン文化が映像化されていた。そのカルダス監督が『セルタゥンは海に変わり、海はセルタゥンに変わるだろう』(2015年)で描いたのは、カンガセイロとナチスが海岸で遭遇するという荒唐無稽なストーリーであったが、同監督の最新作『サウダージ』は、ポルトガル語圏の人たちが心の中に感じるキーワードを巡るドキュメンタリー映画だ。3年の時間をかけて、ブラジル、ポルトガル、ドイツ、アンゴラの4か国で52人の作家、詩人、アーティスト、哲学者らをインタビューし、その累計時間300時間という証言を自在に編集した作品だが、サンパウロでも一般公開され大いに話題となった。
新世代を代表するクレベル・メンドンサ・フィリョ監督の『アクエリアス』(2016年)では不当な不動産業者と闘う未亡人をソニア・ブラーガが好演して国際的な反響をよんだが、今注目を集めている監督は、ジュラ・カペーラだろう。1976年生まれの同監督は、20代でドキュメンタリー映画制作グループCanal03を結成して、短編中編のドキュメンタリー作品を発表してきたが、初めて長編映画に挑戦したのが、ネルソン・ロドリゲス原作の映画化『メス蛇』(2017年)であった。ネルソンが得意とする、愛の三角関係というストーリーはブラジル人が大好きなテーマであり、ベテラン女優ルセリア・サントスの演技もさえていたから、ヒットしたのであった。
そのカペーラ監督が2年前から取り組んでいて現在、最終編集段階に入っているのが、ドキュメンタリー『Mangue Bit』だ。ナサゥン・ズンビのメンバーとは少年時代から一緒に遊んだりしていた仲であることも手伝って、貴重な証言と1990年代の映像を融合させた作品になる由だ。シコ・サイエンスとフレッヂ04による「頭脳付き泥ガニ」マニフェストが発表されたのが1992年、代表曲『泥んこからカオスへ』がリリースされたのが1994年と、文化&社会のモノカルチャーを批判しマンギ(マングローブ)の持つ文化・生物多様性を騒々しく宣言した「マンギ・ビート革命」から四半世紀が経過した。(レシーフェ●岸和田 仁)
こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年3月号に掲載されています。
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