敬愛されるパナマ出身のヴォーカリスト、パトリシア・エレナ・ヴリエグ

パトリシア・エレナ・ヴリエグ

パトリシア・エレナ・ヴリエグ

運河の国パナマの音楽といえば、コロンビアから独立した国ということもあってバジェナートとクンビアを土着化させ、旧宗主国に拮抗する発展をみせたことだろう。そして、運河建設のため移入されたアフロ系労働者によってあらたな血が入り込み、そこからサルサや、近年ではレゲトンのスターを生み出す土壌となった。
サルサはいうまでもなくルベン・ブラデス、レゲトンはその草創期にカリブ、および中米諸国で大ブレークし、マイアミに活動拠点を移したエル・へネラルがいる。そうしたメジャーな音楽とは別に、 社会的メッセージを歌詞に綴り、アコースティックな音楽で活動する歌手たちもいる。こうした存在は外からいちばん見えにくい。
パトリシア・エレナ・ヴリエグという女性歌手がいる。最近、パナマの老人ホームで慰問コンサートを開いたことが地元のマスコミなどで取り上げられ、そのコンサートの様子も動画で配信され話題になっていたので、紹介しようと思った。
その音楽はキューバの革命後に一躍主流となったヌエバ・カンシオンの影響を強く受けたものだ。パナマは、運河を米国の施政から取り戻す国民的運動のなかでメキシコとともに冷戦下でもキューバと国交を早くから回復し、航空路線も回復させた親キューバ派の国である。当然、キュ ーバの音楽はリアルタイムで入ってきた域内諸国でも稀有な国だ。
パトリシアは、2003年はデビューアルバム『トゥス・プロメサス』を発表して以来、今日まで4作のアルバムを出している。特に、2011年に発表したアルバム『ア・ウナ・カントーラ』はアルゼンチンの国民的歌手であると同時に、ラテンアメリカの母、ともいわれたメルセデス・ソーサに捧げられた作品で、これはソーサも認めることになり一緒に仕事する機会をもつことになった。これでパトリシア音楽の傾向が理解できる。
パトリシアの代表作は、2015年に発表された『カバンガ』だろう。これはパナマの先住民の言語から取られたタイトルで、パナマで栽培される果物を素材とするお菓子を意味する。それを食べて育ったパナマ人の民衆、とくに貧しい民衆に捧げられた歌だ。この歌は、パナマで制作された映画の劇中音楽としても取り上げられたようだ。
ボレロの名曲「ベサメ・ムーチョ」なども艶ぽく歌い上げてもいる。そのあたり、ヌエバ・カンシオン系歌手よりは柔軟だろう。
(パナマ●上野清士)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2018年1月号に掲載されています。
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