ロック界の亡きカリスマ、ヘナート・フッソの大規模回顧展が開催中

サンパウロの映像と音の博物館で開催中の ヘナート・フッソをテーマとした展覧会

サンパウロの映像と音の博物館で開催中の
ヘナート・フッソをテーマとした展覧会

80年代半ばから約10年に渡りブラジル中を熱狂させたロックバンド、レジアゥン・ウルバーナ。多くの本誌読者には馴染みが薄いだろうが、ブラジルロック界では、通算アルバム販売数において、ヒタ・リーに次ぐ2千5百万枚を売り上げたグループだ。
惜しまれるなか1996年にHIVで他界したリード・ボーカル、ヘナート・フッソをテーマとした展覧会が来年1月末まで、サンパウロの映像と音の博物館で開催中だ。亡き国民的カリスマがテーマとあって、ミュージアムにとって過去最大規模の展示となった。筆者が訪れたのは、公開より2ヶ月後の平日午後であったが、性別や年齢に偏りのない多くの来場者が見受けられた。
同博物館は、2014年にデヴィッド・ボウイ、2016年にティム・バートンと世界的なアーティストを題材に展示を行ってきた。本展のきっかけは、ボウイ展を訪れたフッソの息子、ジュリアーノ・マンフレジーニが父親の残した様々な遺品をもとにフッソの展示を持ちかけたことだった。
調査段階で本展キュレーターを驚かせたのが、フッソが後年過ごしたイパネマのアパートだった。華やかなロックスターとしての印象とは異なる、時代遅れの調度品に囲まれた住居には、学校の成績表から歌詞の走り書き、ファンレター、楽器や舞台衣装まで、フッソの多くの遺品が、まるでタイムカプセルのように保管されていたのだった。病魔に蝕まれるなか、自らの足跡を後世にはっきりと残す意図があったのかもしれない。
迷路のように仮設の展示パネルが配置された会場を見て回る体験は、まるでフッソの脳内を巡るようだった。舞台衣装や楽器、ステージ写真、あるいは全アルバムのプラチナ、ダイヤモンドディスクなどの展示がフッソの晴れやかな舞台での栄光を感じさせれば、青年時代にノートに綴った詩やデッサンは、思案げで、感受性豊かな人物像を描き出した。
フッソは、占星術、タロットなどの神秘的な世界にのめり込んでいたようだ。それらのカードや書籍を展示した部屋が、仮設の回廊とは別に設えられていた。使い込まれたタロットカードから、日常的に自らの運勢を占っていた様子が伺えた。
「僕は死ぬのかもしれない。それを受け止めることが出来ず、とても怖い。すべてが不愉快だ。何もやる気が起きない。」ノートに書き込んだ走り書きは、死を目前とした緊迫感が心を打つ。
国民的ロック歌手として頂点にあった96年の他界に、多くの若者が涙した日を思い出した。それら直筆の日記や文章を、読み込む来場者が多かったことに、死後もフッソのメッセージが色褪せないことを感じた。
(サンパウロ●仁尾帯刀)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ12月号に掲載されています。
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