ユーロヴィジョン優勝から半年、サルヴァドール・ソブラル、心臓移植手術へ

サルヴァドール・ソブラル © Shiori Yamaguchi

サルヴァドール・ソブラル
© Shiori Yamaguchi

今年6月号の当欄でもお伝えした、ポルトガル代表としてユーロヴィジョン初優勝を果たしたサルヴァドール・ソブラル。ポルトガル語詞の美しいスロウバラードの出場曲「Amar Pelos Dois」は多くの人々の胸を打ち、本国は勿論、ヨーロッパを中心に熱狂的に賞賛された彼だが、現在心臓に抱えた持病の悪化に伴い、音楽活動の休止を余儀無くされている。
通常、ユーロヴィジョン優勝者は大会後、出場曲を引っさげツアーやプロモーション活動に全力を尽くすのが定石だが、ソブラルは活動範囲を国内に留め、テレビ出演や取材も数を絞っていた。アメリカの人気トーク番組「ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン」をはじめ、世界各地からの取材やビッグイベント出演のオファーを断り続けるソブラルには、「せっかくポルトガルの音楽を世界に広めるチャンスなのに」「優勝したことでお高くとまっている」などの批判や、逆に「ユーロヴィジョンの一発屋、というイメージを定着させたくないのだろう」と理解を示す意見が飛び交った。しかし、実際はいつ急変してもおかしくない病状が彼の活動を妨げていたようだ。
そもそも、ユーロヴィジョン以前からソブラルの健康問題に関しては度々報じられていた。だが優勝以降注目が集まり仕事量が激増したことも、今回の活動休止と無関係ではないだろう。夏にはソロ名義での国内ツアーに平行して、フェルナンド・ペソアの「異名(別人格)」のうちの一人の詩に音楽をつける擬人化プロジェクト、アレクサンダー・サーチとしてのアルバム発表と公演も行なっていた。
9月頭に音楽活動を休止し治療に専念することを発表し休止前最後の公演で涙ながらにパフォーマンスを行なった後、ソブラルはリスボン市内の病院に入院。近親者をソースとするメディア報道によると、入院後集中治療室に収容され改めて心臓移植の必要性が宣告されたようだ。現在は一般病棟でドナー提供を待っており、待機期間によっては人工心臓の埋め込みも検討されているという。
筆者が今年7月にコンサートを観た際には、迫力あるパワフルな歌声で、噂されているほど重篤な状態ではないのかと安心したものだが、あの「歌うことは生きること」だと言わんばかりの歌声の背後に病気との闘いがあったのかと思うと胸が痛む。今の状況に一番歯痒い思いをしているのは本人だろうし、その悔しさはいかばかりだろうか。カエターノ・ヴェローゾをはじめ、ユーロヴィジョンで共演した他国代表の出場者や国内ミュージシャン達も、励ましのメッセージをSNS上に投稿している。回復と音楽活動の再開を祈りたい。
(ポルトガル●山口詩織)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ11月号に掲載されています。
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