ロックの女王、ヒタ・リー 自伝、驚異のロングセラーへ

『ヒタ・リー:ある自叙伝』の表紙

『ヒタ・リー:ある自叙伝』の表紙

ロック・ミュージシャンとしてもフェミニズムの闘士としても活躍してきたヒタ・リー(1947年生まれ)の自伝『ヒタ・リー:ある自叙伝』が昨年11月に刊行されたが、爾来40週連続で、ベストセラー・リストの3位〜5位をキープしてきている。
評者も早速購入して一気に読了したので、この自伝の魅力の一端をメモしておこう。
彼女の家族の歴史から始まって、GS「オス・ムタンチス」(1968〜 1972)結成から解散まで、エリス・ヘジーナ、ジョアン・ジルベルト、ジルベルト・ジルらとのコラボ、等々、それこそブラジル音楽現代史を彩る様々なファクトがテンコ盛りだ。さらには、彼女を巡る愛情物語が時にシニカルに時にコミカルに書かれていて、例えば、パウロ・コエーリョ(当時はハウル・セイシャスの作詞家)とは仕事面だけでなくラブ・アフェアーもあったとか、音楽でも私生活でもパートナーのホベルト・ヂ・カルヴァリョとの入籍は同棲20年を経た1996年だった、とか。
彼女の文章が大衆小説家の如く読みやすく、しかも英語とポ語の卑猥語がちりばめられているのだから、読者が面白がるのは当然だ。赤裸々な性体験もあっけらかんと記述されていて、ミュージシャンの自伝というよりも私小説の如き文芸作品に仕上がっている。
まずは、ファミリーのルーツについて。母親はイタリア移民二世でカトリック信者だが、父親は、アメリカ移民三世で“南部魂”の継承者として娘のミドルネームに南軍総司令官リー将軍の名前を付けたので、ヒタ・リーとなった訳だ。もう少し解説を加えると、南北戦争で敗北し移民としてサンパウロ州内陸部のアメリカーナに1867年入植した南部州出身者のYancey Fenley Jonesがヒタの曽祖父だ。彼らアメリカ移民の子孫家族は、2年毎にアメリカーナの墓地兼集会所に集まっては、南北戦争当時の服装で会食している由だ。
父方からはプロテスタントにしてフリーメイソンの米国式文化、母方からは保守的なカトリック信仰文化、と全く異なる二極の混合が自分なのだ、と書くヒタは、ミュージシャンとしての自己評価はやたらと謙虚で、「自分は歌唱力がなく声量も弱いし、随分と音痴だ」と。さらには、ホテルにチェックインする時、宿泊者カードの職業欄に「歌手」と記入したことは一度もなく、「作曲家」と書いたり、時には「音楽者」(musicianでなくmusicist)と記入していると。
2011年にパーキンソン病と診断され、一時、薬漬けとなったことも包み隠さず書き記している。
(サンパウロ●岸和田 仁)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ10月号に掲載されています。
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