価値観の違いを超える平和への願い アラブ系バンドが追悼式で音楽を担当

犠牲者の追悼式の様子(バルセロナ市の公式サイトより)。

犠牲者の追悼式の様子(バルセロナ市の公式サイトより)。

日本でも大きく報道されたが、カタルーニャでは8月17日に州都バルセロナと南部のビーチリゾート地、カンブリルスでイスラム過激派によるテロ攻撃が起こった。死者16人、負傷者155人という犠牲者の数は2004年のマドリード列車爆破テロに次ぐ多さで、バルセロナでは観光客で賑わうランブラス通りが標的となったこともあり、巻き込まれた人々の国籍は30を超える。テロ実行犯はマドリードのテロ実行犯につながるイスラム過激派で、これまでもカタルーニャでは大規模テロ計画中のグループの逮捕が度々起こっていた。今回の事件でも、当初実行犯グループは爆発物を用いた同時テロを計画しており、計画通りに行われていれば犠牲者の数は数十倍、数百倍に膨れ上がっていたと言われている。
テロ攻撃によって深い傷を負った共同体を立て直すために、カタルーニャ州政府とバルセロナ市が中心となって企画した行事の一つは、8月24日に海洋博物館で行われた犠牲者の追悼式だった。これはカタルーニャにあるすべての宗教・非宗教組織の代表を集めた式典で、異なる思想を持つ人々がともに暮らすカタルーニャの現実を反映したものだ。その数日前にサグラダファミリア教会で国王や政府の幹部、外国の首脳が顔を揃えるミサが大々的に行われて、国外に「カトリックの国スペイン」という印象を与えたのとは好対照をなす。ユダヤ教徒、様々な宗派のカトリック教徒、イスラム教徒、仏教徒から、無心論者、非宗教主義者まで多様な価値観を持つ人々が一同に会して、テロの犠牲者を偲び、テロと不寛容に対する反対を誓った。
犠牲者の追悼式で音楽を担当したのは、2005年から活動するアラブ系移民が参加するバンド、オルケストラ・アラべ・デ・バルセロナ。カタルーニャ出身のチェロ奏者パウロ・カザルスの作品で、平和を象徴する曲となった「鳥の歌」の演奏で始まった。式典では、「平和に至る道はない。平和こそが道なのだ」というガンジーの言葉を始め、聖書、コーラン、経典、トーラー、世界人権宣言など多岐に渡るテキストの中から、すべての思想に共通する価値観である「平和」に言及する箇所が引用された。最後は会場を出てテロ現場となったランブラス通りにあるジョアン・ミロのモザイクに向かい、白い花輪の献花、ランブラス通りを称えたガルシア・ロルカの詩の朗読と続き、ルイス・ヤックの「小さな国」の演奏で式典は終わった。
(バルセロナ●海老原弘子)


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