ブルターニュからのヤン・ファンシュ・ケメネールの最新アルバム

ヤン・ファンシュ・ケメネール 『DAÑSダンス』

ヤン・ファンシュ・ケメネール
『DAÑSダンス』

ブルターニュ人が集まると「カン・ア・ディスカン」(ブルターニュの伝統ダンス曲)のリズムに乗って自然に踊りだすのだろうか。20年も前の話だが、パリの文化団体ミッション・ブルトンヌでフェスト・ノースといブルターニュのお祭りに初めて接した時のこと。老若男女が手をつなぎ、足をならし蛇行しながら伸びたその踊りの列は新来者を次々に呑みこんでゆく。ホールの正面では二人の歌い手がア・カペラ(無伴奏)で互いの声を絡み合わせながらリズミカルに歌い上げる。その熱気に陶酔、いやトランス状態になったことを思い出す。
「カン・ア・ディスカン」は単調な旋律を引っ張る歌い手とその最後のフレーズを繰り返す相方の歌い手(1人またはそれ以上)との声の戯れが独特のリズムをかもし出す歌唱法だ。特にブルターニュ中部で歌われ、まるでダンスと呼応するかのように延々とリズムが続くのだ。このダンス曲のリズムにはガヴォット、フィゼル、プリンなど様々のタイプがあるという。
その伝統をしっかり引き継いだブルターニュ中部のサント・トレフィンヌで1957年、ヤン・ファンシュ・ケメネールは生を受けた。両親は地元で有名な歌い手だったらしい。そんな環境だったからすでに4歳の時にフェスト・ノースで初披露、15歳の頃から定期的に出演する。そして1975年の「カン・ア・ボブル」伝統歌コンクールで広く知られることになる。1977年にレコードデビューして以来、30を超えるアルバムを発表。また伝統歌のコレクターとしても有名だ。
今回ブルターニュから届いたヤン・ファンシュ・ケメネール・トリオのアルバム『DAÑSダンス』(コープ・ブレーズよりリリース)はガヴォット、フィゼルなどのスタイルをダイアトニック・アコーディオンのエルヴァン・トビ、ギターのエイキ・ブルゴと組んで再現したものだ。じっと耳を澄ませばケメネールが歌う旋律の最後の部分をアコーデオンとギターがまるで相方の歌い手のように繰り返し演奏しながら曲が進められていく。ケメネールの透き通ったヴォーカルが楽器のように響く。ギターとアコーデオンが歌い手の声のように聞こえてくるのも不思議だ。
同盤のレパートリは大半がケルジャンやゴアデック姉妹といった中部ブルターニュ伝統歌の大家からケメネールに伝授されたものだ。それぞれの曲の伝統的なスタイルを守りつつ現代的に解釈されたこのアルバムは、バドゥームス・バンドでエチオピア音楽との融合を試みたエリック・メヌトーとヤン・ファンシュ・ケメネールがビートのきいたア・カペラでぶつかり合う2012年に出た「Vive la liberté(自由万歳)」(アオラ・コーポレーションより日本発売)と聴き比べるのもおもしろい。

(パリ●植野和子)


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