ブラジル国産映画 制作数でも観客動員数でも健闘中

『原題:Minha mãe é uma peça』 (「私のママは芸術作品」邦訳)

『原題:Minha mãe é uma peça』
(「私のママは芸術作品」邦訳)

ブラジル国立映画庁の発表によれば、昨年2016年の映画界の観客動員数は1億8千430万人に達し、総売上高は26億レアルとなった。外国映画とブラジル国産映画を分けてみると、国産映画の観客動員数は3千万人であった。映画館の数も、1970年代の黄金時代は3276館もあったのが1990年代には3000館を下回るレベルにまで低迷していたが、2009年以降漸増傾向にかわり、昨年度の館数は、3160にまで回復してきた。
この辺の事情をもう少し具体的に突っ込んでみてみよう。まず健闘したブラジル国産映画の実例は何か。2015年東京国際映画祭で東京グランプリを受賞し、昨年日本で一般公開もされた『ニーゼと光のアトリエ』は、精神病院の改革に苦闘する女医ニーゼをグロリア・ピレスが熱演した作品だが、ブラジルでの観客動員数は16万人に達した。
レシーフェの悪徳地上げ屋に必死の抵抗を試みる元音楽評論家をソニア・ブラーガが好演したことで国際的な評価もえた『アクエリアス』は、映画館入場者数が35万人となった。
エリス・レジーナ(1945~1982)のアーティストとしての半生を「闘う女」の視点から描いた『エリス』の観客動員数は54万人だ。エリスを演じたアンドレイア・オルタの好演がブラジル人観衆の心を揺さぶったからだろう。
だが、昨年の最高の観客動員数(400万人)を記録したのは、コメディー映画『私のママは芸術作品(続編)』だった。女性コメディアン、ドナ・エルミニアを躍動的に演じたのは女装したパウロ・グスターヴォ(男優)で、男女を問わずブラジル人観客を大いに笑わせたからだろう。
この4本に代表されるブラジル国産映画の昨年の制作数は、143本で、うち97本がフィクション、45本がドキュメンタリー、1本がアニメであった。上映映画全体に占めるブラジル国産映画のシェアは、2015年は13%であったが、2016年には16.5%まで好転している。
いうまでもなく、ブラジル経済は不調が続いており、前年比GDP成長率は、2015年▲3.77%、2016年▲3.6%と二年連続のマイナス成長だったのに、映画については、昨年の観客動員数は、かつてのピーク時(1984年)以来の好成績であったのだ。また、地域別にみると、人口比で相対的に伸びているのが、ブラジル北部と東北部だ。これがファクトである。
映画を観るという行為は景気とは関係ある、ない、の議論はともかく、映画も立派な文化産業である以上、この好成績は経済的プラス効果も意味している、と解釈すべきだろう。

(サンパウロ●岸和田 仁)


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