カメリア・ジョルダナがソウ・アバディ監督の長編映画で好演

CHERCHEZ LA FEMME (その女を探せ)

CHERCHEZ LA FEMME
(その女を探せ)

パリ市内でも目だけ残して全身をすっぽり黒いブルカで覆い隠した女性を見かけることがある。くるぶしまで隠し、地面に垂れた長い裾は歩くたびに道路掃除をしてくれるようだ。きちっとアイメイクした若い女性の颯爽とした姿は崇高でさえある。だが、サルコジ大統領時代の2010年に公共の場でのブルカ着用禁止法が成立し、違反すれば罰金、夫や父親などから強制された場合はさらに厳しい懲罰が処せられる。
6月28日にフランス全国で公開されたソウ・アバディ監督の初のフィクション「Cherchez la femme(その女を探せ)」は女性監督ならではの視点でブルカを中心に展開する痛快なドタバタ喜劇だ。
あらすじはこうだ。レイラ(カメリア・ジョルダナが好演)は弟とパリ郊外の団地に住んでいる。成績優秀な彼女はエリートコースのパリ政治学院に進学し、同級生の彼氏アルマン(眼差しだけで演技するフェリックス・モアティ)と共に海外研修先をニューヨークの国連に決めていた。そこにイスラム急進派となってイエメンから帰仏した兄(ウィリアム・レブギル)が父権を振り回し、妹レイラに外出禁止を言い渡すのだ。彼女に会えなくなってジレンマに陥ったアルマンは良案を思いつく。黒いブルカで全身を覆って女性になりすまし、彼女のアパートに乗り込むというのだ。書物で懸命に勉強してイスラム教に関する知識も得た。アイメイクを施したアルマンのブルーの瞳、裏声を使った優しい言葉にすっかり虜になった兄はイスラムの同胞を呼んでこの謎の女性を追っかけだす始末。黒いブルカ姿で車を運転すれば警官にも追っかけられ、あたふたとパリの高級住宅街にある両親宅に戻ってやっとブルカを脱ぐといった具合だ。
ソウ・アバディ監督自身、1979年のイラン革命を体験しており、その後家族と共にフランスに逃れたのは15歳のときであった。当時下校時にブルカを着用しなかったという理由だけでクラスメイトが顔に塩酸をかけられた事件があった。「ブルカを着用しないと罰せられるイラン。フランスではブルカを着用したい女性がいるのに一律にダメだと言うのにも納得がゆかない。あたかも女性には信仰の自由はないかのように」とアバディ監督は語っている。
2009年に新人発掘番組「ヌーヴェル・スター」で準決勝し翌年レコードレビューした魅力的なハスキーボイスの持ち主、カメリア・ジョルダナのことはアバディ監督はまったく知らなかったという。数多くの候補者のカメラテストの中からバイタリティ溢れる彼女に白羽の矢を立てたのも役柄のイメージそのままだったらしい。ありえない話だと思いながらもユーモアと政治風刺がミックスされ、爆笑が絶えない作品となっている。
(パリ●植野和子)


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