表現の自由を訴える 13時間マラソンコンサート

チャランゴ、フェルミン・ムグルサ、チェ・スダカと日本人にも馴染みのある名前が並ぶ。

チャランゴ、フェルミン・ムグルサ、チェ・スダカと日本人にも馴染みのある名前が並ぶ。

テロとの闘いの名の下、欧州各国で表現の自由への規制が強まる中、ついにミュージシャンが抗議の声を上げた。音楽や文化に携わる組織が集まって市民プラットフォーム「No Callarem(黙るもんか)」を結成し、5月21日バダロナ市(カタルーニャ)において、表現の自由の擁護を掲げたイベントを開催。ヒップホップ、ポップス、ブルース、メタル、レゲエ、メスティサへとジャンルを超えて集まった40組を超えるミュージシャンが代わる代わるステージに上がり、13時間に及ぶマラソン・コンサートを行った。同様のイベントがバレンシアやマドリッドで開催されることが決まったほか、バルセロナの巨大フェス、プリマベラ・サウンド内でも抗議行動を行うなど、現在も積極的に活動を続けている。
各方面から表現の自由への圧力が強まる中で、最初に団結したのがミュージシャンであったのは、政治的なテーマを扱うラッパーが標的とされるケースが続いているためだ。3月号の本欄で取り上げたCon DosのCésar Strawberry(懲役1年半)はツイートの内容が問題視されたが、Josep Viltonicy(懲役3年半)とPablo Hasél(懲役2年)には歌詞の内容が「テロ称揚」にあたるとして実刑判決が下された。さらに、PVに警察官の映像を用いたことが2015年7月に発効した通称「さるぐつわ法」に違反するとされて起訴されたAyexとPorkのケースなど、枚挙にいとまがない。イベントのスローガン「Demà pots ser tu(明日は君かも知れない)」というフレーズがリアリティを持って迫ってくる現状に、みな危機感を募らせているのだ。
音楽セクターからこれほど大規模に抗議活動が行われるのは、アスナール政権のイラク侵攻に反対してマドリッドで開催されたコンサート(2003年)以来。国民党が黙っているはずもなく、早速、バダロナ市議会において公共施設でのテロ犯罪で有罪判決を受けた者が出演するイベントの実施を禁止する法案を提出し、可決にこぎ着けた。加えて、21日のコンサートで現国王フェリペ六世の写真が燃やされたことを理由に、カタルーニャの中央政府代表部に法的措置を取ることを求めている。
こうした状況の中、フェイスブックの書き込みがテロ称揚にあたるかどうかを争った裁判で、高裁がStrawberryに有罪判決が下される根拠となった理論を修正する内容の判決を下した。Strawberryが憲法裁で逆転無罪を勝ち取れる可能性が大きくなったわけで、表現の自由を巡るミュージシャンとラホイ政権の攻防はますます激しくなりそうだ。
(バルセロナ●海老原弘子)


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