ジブラルタル海峡をつなぐ映画祭FCAT

『フェリシテ』のワンシーン。2017年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞している。

『フェリシテ』のワンシーン。2017年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞している。

4月28日から5月6日までタリファ(スペインのカディス県)とタンジェ(モロッコ)ではFCAT(タリファ=タンジェ・アフリカ映画祭)が開催された。アフリカと欧州で同時開催される世界にたったひとつの映画祭は、今年で14回目を数え、そのスクリーンを飾った作品の数は千本近くになる。

ジブラルタル海峡の両岸の都市で行われる映画祭を主催するのは、2003年にカディスで産声をあげた非営利団体Al Tarabだ。映画を核とする文化協力によってアフリカの文化をスペインやラテンアメリカに普及させることを目的に設立された。代表Cisnerosは「アフリカの映画人の声を通して、アフリカやアラブ世界の多種多様な現実やラテンアメリカへのディアスポラ(奴隷貿易による強制移住のこと)について一人でも多くの人に知ってもらいたい」と語る。

彼らの活動の柱の一つがFCATであり、今年は9日間で70作品が上映された。長編の最優秀作品賞に輝いたのはフランス=セネガル人Alain Gomis監督『Félicité(フェリシテ)』。コンゴ民主共和国の首都キンシャサのバルで歌手として働く独立心旺盛でプライドの高い女性フェリシテは、天性のリズム感と力強くもメランコリックなメロディで聴衆を魅了していた。そんなある日、息子が事故にあって重傷を負い…。コンゴ人女優Véro Tshandaが演じる勇敢なシングルマザーの物語が、審査員全員一致で大賞に選ばれた。

映画祭に出席したタリファ市長は「海峡は境界線ではなく、文化を通して発展する橋だ」と語ったが、スペインでジブラルタル海峡をつなぐイニシアティブが生まれた背景には、両岸の人々が自由に行き来しながら、同じ海を分かち合いながら暮らしてきた長い歴史がある。例えば、本年の上映作品の一つ『QUIVIR』(Manu Trillo監督)は、ジブラルタル海峡の両岸、アンダルシアとモロッコで、同じようにコルクの木の伐採を生業にする二人の男を主人公として、二つの異なる文化圏が同じ世界を構成していることを示す作品だ。「地中海の難民危機」以来、地中海をまるで天然の防壁のように扱おうとするEUに対する南欧の反発は、こうした「海」についての認識の違いが根本的な原因となっている。

今年は緊密な「隣人関係」を未来の世代につなげるため、モロッコとアンダルシアの子どもが一分間の映像作品製作を通じて交流を行う企画も実施された。要塞化に向かう欧州において、両岸をつなぐFCAT活動は今後さらに重要性を増していくことになるだろう。

(バルセロナ●海老原弘子)


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