フェルナンド・オテロ「ソロ・ブエノスアイレス」アルバム発表

フェルナンド・オテロ

フェルナンド・オテロ

20代前半でNYに移住するまでブエノスアイレスで暮らしたラテン・グラミー賞受賞アーティストのフェルナンド・オテロは、今回のCDについて、自身の幼少期を形作るタンゴ達との「再会」を意味すると語る。彼の音楽を聴く時、アルゼンチンの伝統的なタンゴが完全に現代的な、コスモポリタンの音楽として生まれ変わっていることに驚かされるだろう。

オペラ歌手を母に持つフェルナンドは自身を「生まれつきの歌手」と表現する。時にロックやジャズを思わせる切ない歌声、しかし哀しすぎない上品な歌声を持つ。

フェルナンド特有の楽器ともいえる鍵盤ハーモニカでスタートする「カフェティン・デ・ブエノスアイレス」は、メロディーが心を捉えるタンゴの一つだと語る。バイオリンとチェロを贅沢に使った壮大で優しいアレンジ。時にフェルナンドのピアノの弦が鋭く響く。

セクシーで特徴的なアニータ・コの歌声にフェルナンドの歌声が重なる時、その曲が「コモ・ドス・エクストラーニョス」だということに驚く。 ディエゴ・スキッシのアレンジによる「ソレダ」はディエゴの優しいピアノや、フアン・パブロ・ナバーロのコントラバスの響きがフェルナンドの歌声と相まって私達の哀しみを包み込む。

アレハンドロ・レルネールとの「カフェ・ラ・ウメダ」は二人の男性ボーカルによる心揺さぶる美しさがある。カチョ・カスターニャの比較的新しいこのタンゴ(1973年)はアレハンドロによる選曲だ。

ギジェルモ・フェルナンデスと歌う「トゥ・ノ・エスタス」は、バンドネオンとの掛け合いがノスタルジックに響く。

フェルナンドのオリジナル曲である「メモリアス・キエタス」はニック・ダニエルソンのバイオリンの響きが切なく心の琴線に触れ、鍵盤ハーモニカの音色や幾重にも重なる弦の響きが心に寄せては引いていく。

「ブエノスアイレスの音楽は僕にとって母国語の一つ。感情に形を与える手段として様々な表現方法を探してきた。オーケストラの様式は、一般的にアカデミックなものとして捉えられているものを届けることができるから。でも、僕のアルバムではどの曲も僕の幼少期に聴いたブエノスアイレスの民衆音楽、本能的で偶発的な音で始まるんだ」

ニューヨークに20年以上暮らすフェルナンドらしいタンゴ達だと思う。全体を通して感じられる優しさは、もしかすると現代の不安定で少し殺伐としたブエノスアイレスでは生まれない音楽かもしれない。NYを中心にイギリス、アルゼンチン、ベネズエラのアーティスト達と演奏された曲達はきっと日本の音楽ファンの心にも響くものになるだろう。

(ニューヨーク●折田かおり)


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